ふるさと納税が今月1日から総務省の事前審査制に移行した。「寄付を集める自治体間の競争が、自治を進化させる」。こんな理想を掲げて2008年に始まったものの、過熱する返礼品競争に揺れ続けた。今後は「理想」に近づけるのか。「騒動の地」と「原点の地」で、制度の行く末を考えた。
大阪府泉佐野市。「返礼品は寄付の3割以下の地場産品に限る」との総務省通知を守らず、多額の寄付を集めたとして、静岡県小山町、和歌山県高野町、佐賀県みやき町とともに1日から制度の対象外となった。
5月下旬、市内で返礼品を扱う約140の業者は忙しいままだった。全国メーカーの乳児用品を返礼品にしていた市内の企業は「市の駆け込みキャンペーンのおかげで、来年3月分まで発注が埋まった」。同社の返礼品の売り上げは昨年度2億円弱。今年度はさらに上回る見込みだ。
返礼割合、一時最大7割に
市は元々、「日本の半返しの伝統を意識」(阪上博則理事)して返礼割合を5割に設定し、地場産品とは関係のないビールなど1100品目の返礼品を用意。2~5月には、返礼品に加えてアマゾンギフト券も付け、返礼割合を最大7割まで引き上げた。
背景には、厳しい財政事情がある。「関西空港の玄関口の街づくり」として下水道事業や公共施設整備を進めたが、関空の利用者数が低迷し、08年度決算で財政破綻(はたん)寸前とされる「早期健全化団体」に転落。今は脱したものの、小中学校のプールは、ふるさと納税の収入を得てようやく整備できた。阪上氏は「苦しい時に国は助けてくれなかった。今は国に頼らない意識が強い」と話す。
石田真敏総務相は泉佐野市に対し、「身勝手だ」などと厳しい口調で批判してきた。ふるさと納税は、住民が住んでいる自治体に払う住民税の一部を、好きな自治体への寄付に充てられる仕組み。制度設計を議論した総務省のふるさと納税研究会の元委員は、「返礼品の是非を議論した覚えがない。自治体の良識に期待した制度で、今の状態はまったく想定していなかった」と明かす。
総務省によると、17年度は平均で寄付の56%が返礼品や送料の経費に使われた。自治体の財源になるはずだった2027億円(寄付総額は3653億円)が失われたことになる。18年度は、今回制度対象外になった4市町だけで1022億円(前年度比785億円増)を集めており、「失われた財源」はさらに膨らむ可能性がある。
ふるさと納税を07年の総務相時代に提唱したのは菅義偉官房長官。その実家は、秋田県湯沢市の山と清流に囲まれた盆地にある。
「菅さんの出身地、ルール守らなければ」
湯沢市は420種類の返礼品を用意し、18年度のふるさと納税の収入は前年度並みの3億円。市協働事業推進課の阿部透課長によると、気になるのは返礼品が似通う周辺自治体の動向だ。自分たちの収入の方が少なければ、議会から厳しい叱責(しっせき)が飛ぶ。隣の横手市が返礼割合4割の返礼品で寄付収入を伸ばした時は、「菅さんの出身地として、ルールは守らないといけない。苦しかった」という。
市はこれまで「地場産品のセリを作る若手農家を支援」「墓地清掃サービス」など、目に見える地域の応援につながり、出身者にもアピールする寄付を企画してきた。菅氏が少年時代によく釣ったというイワナの「甘露煮」の返礼も。イワナの返礼品は年100件計50万円程度の寄付収入にとどまるが、「毎年決まって注文してくれる人がいる」。制度の趣旨に沿った利用者とのつながりが、過疎化に悩む地方の励ましにもなっているという。(別宮潤一 別宮潤一)
視点 「消える財源」政府は検証を
ふるさと納税は、都会から地方へとお金を移すことを促す仕組みだ。名前のような納税制度というよりも、本来は見返りを求めない寄付制度に立脚している。「ふるさと」の定義もあいまいで、都市と地方、地方間格差が生じやすい。税の専門家や都市部の自治体などは、制度導入時から「税の公平性を揺るがす」などと批判してきた。
これに対し、総務相として制度を提唱した菅氏は当時、「高校まで地方で教育費用を負担しても、税金を払うころには都会に出て行く」との問題意識を語り、主に地方側に支持された。小中高の12年で税金が1人に1139万円必要(2014年度、神奈川県調べ)とのデータもある。
制度に対する賛否両論がある中、総務省幹部は返礼品を3割以下の地場産品に限ったことについて、「線引きを明確化するしか制度を守れなかった」と話す。
今回のルール改正で、返礼品の原資、送料、広告料などにかかるすべての経費は「寄付の5割以下」とした。寄付の元となる税金の半分が自治体財源にならずに消えていることを総務省が初めて認めたことになる。返礼品を廃止しない限り、制度が普及するほど「消える財源」は増えていく。「税金」であれ、「寄付」であれ、それが地域のために本当に使われたといえるのか。政府には、検証し続ける責任がある。(別宮潤一 別宮潤一)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル