藤原慎一、松本真弥
熊本県と鹿児島県を結ぶJR肥薩線が、存続の危機に瀕(ひん)している。昨年7月の記録的豪雨で深刻な被害を受け、復旧の見通しが立っていないからだ。国も地元も運転再開を望むが、コロナ禍による業績悪化に加え、相次ぐ災害がJR九州に重くのしかかる。
球磨(くま)川に沿って敷かれたレールは、ひしゃげたまま茶色くさびていた。明治期の建造で、国の近代化産業遺産群にも指定された橋梁(きょうりょう)は流され、崩れた橋脚だけが残る。
通勤や通学の足であると同時に、観光列車「SL人吉」が走り鉄道ファンにも親しまれてきた肥薩線。1年前の豪雨で駅舎や橋、線路など約450カ所が被災した。総延長124・2キロの7割近い八代(熊本)―吉松(鹿児島)の86・8キロで、運休が続く。
「決まった時間に聞こえるSLの汽笛は生活の一部だったのさ。静かになってしまって涙が出るよ」。球磨村の中心部に立つ一勝地(いっしょうち)駅。人も列車も来ないホームで、橋詰兵士郎さん(79)がつぶやいた。
橋詰さんは村役場を退職後の2019年7月、JR九州から一勝地駅の名誉駅長を委嘱されたが、わずか1年で豪雨に見舞われた。
川沿いの駅舎が軒並み被害を受けるなか、1914年建造の一勝地駅は浸水を免れた。だが周辺の線路は断ち切られ、レールの上に草が伸びる。「もう一度、汽笛を聞いて観光客とふれあいたい」。地域に愛される鉄路の復旧を願う。
思いは、熊本県や沿線の自治体も変わらない。
「JR九州に一日も早い復旧…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル