みんなでほおばったチキン さよなら「とっとちゃん」、校門すぐそば

 日替わり丼273円、名物のフライドチキンは1本142円。インターハイ出場を記念した部活動の色紙や、卒業式で配られた胸の花飾りが、6畳ほどの店内の壁を埋め尽くす。

 札幌市豊平区にある北海道科学大高校(旧尚志学園高)のすぐ近くで、20年にわたって食べ盛りの高校生たちのおなかを満たしてきた食堂「とっとちゃん」が、今月16日で営業を終える。

 閉店は、一人で店を切り盛りしてきた店主の宮崎セツ子さん(71)の体調が思わしくないのが理由だ。「もう限界と思いました。新型コロナウイルスに負けたと言いたくないので、意地で頑張ってきたけど、自分の体に負けちゃった」とさばさばと話す。

 宮崎さんは北海道北部、上川地方の旧中川村(現中川町)出身。2001年に夫の幸夫さん(72)と、札幌にある北海道科学大高校の近所に「とっとちゃん」をオープンした。04年には正門からすぐそばの現在の場所に移った。

 看板料理は「ひみつのスパイス」入りのフライドチキンで、店の名前をそのまま付けた「とっとちゃん」。かつては1本100円で、部活などが終わる時間には店に入りきれないほどの生徒らが集い、店の前でとっとちゃんをほおばっておしゃべりをしていた。すぐ隣には学校寮があり(現在は閉鎖)、小腹をすかせた寮生が夕食後に訪れることもしばしばだったという。

 同校はスポーツ部の活動が盛んだ。宮崎さんは全国大会出場を決めた部に色紙を書いてもらう代わりに、返礼として全員分のフライドチキンを差し入れて健闘を祈ってきた。

 北海道室蘭市出身の元寮生で、現在は同校の教師としてバレー部監督を務める辻克典さん(34)は「今月初め、閉店すると聞いて涙が出た。いつも温かく見守ってくれて、教師として戻ったときも『おかえり』と迎えてくれた」と振り返る。

 同校は2年後の23年春に、北海道科学大学のキャンパスがある札幌市手稲区に移転する。セツ子さんは心臓などに持病があったが、幸夫さんが病気で静養するようになってからも「移転まで頑張ろう」と、一人で店に立っていた。しかし料理の仕込みや客との応対で毎日立ち作業が続き、疲労が蓄積。コロナ禍での休業要請や休校などで客足が遠のいたことも響き、今月初めに店じまいを決めた。

 最近は閉店を知った生徒や卒業生らが色紙を取りに訪れ、旧交を温める毎日という。11、12日の週末は仕込んだ食材が早々になくなるほどの盛況だった。「地域の皆さんに支えられた20年でした。思い出がいっぱいすぎて」と宮崎さんは声を詰まらせる。

 16日午後5時までいつも通り営業して、店を閉める。「私らしくひっそりと、最後まで務めたい」という。(戸田拓)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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