アスリート支える聖地を見た 池井戸潤が迫るミズノ工場

 作家の池井戸潤さんが仕事の現場を訪ねる企画が、朝日新聞土曜別刷り「be」で連載中です。今回は、岐阜県にあるミズノテクニクス養老工場。ゴルフクラブや野球のバットなどを製造し、アスリートたちを支えています。そこに込められた最高の技術にカメラとペンで迫ります。デジタル版では池井戸さんが撮影した写真をたっぷりご覧いただけます。

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「テキトーなシューズでいいんで、作っていただけないでしょうか」

「ウチにはテキトーなシューズというのはありません」

 2017年10月に放映された拙著原作ドラマ「陸王」が放映されていたときの、テレビ局プロデューサーとミズノさん側とのやりとりである。

 町の足袋業者がランニングシューズ作りに挑むこのドラマで、ミズノさんには、ランナー役の竹内涼真くんとライバル役を演じた佐野岳くんが履くシューズの両方を作っていただくことになっていた。

 片方は物語のテーマとなる足袋の形をした紺色のシューズ。もうひとつは大企業が最新テクノロジーを凝縮したという想定のピンクのシューズ。ピンクの方はチラリとしか映らないので見かけだけ整っていればいいと考えたテレビ局の意見を、ミズノさんは頑として拒絶し、どちらも入魂のシューズを製作したのである。

 もの作りに携わる者としてのプライドを感じさせるエピソードで、プロデューサーから聞かされて「さすがミズノだ」と痺(しび)れた。

 いま「MIZUNO」という商標で世に出ている各種スポーツ用品の製造を担っているのが、この日、工場を撮らせていただいた、ミズノテクニクスだ。

 いわばミズノが誇る、もの作りの牙城(がじょう)である。

 新幹線岐阜羽島駅からクルマでおよそ40分。「養老の滝」で有名な岐阜県養老町の高台に立つ工場は、ゴルフの「YORO JAPAN」でお馴染(なじ)み、主にゴルフクラブと野球のバット、そしてバドミントンラケットなどを手がける同社の主力工場である。

 従業員は200人ほど。

 もの作りが好きで入社する社員が多いせいか離職率は低いと、社長の中田匠さん。それだけじゃなく、工場にうかがってみると社風の良さも透けてみえた。社員として働きやすいのだろう。

 この日はゴルフクラブと野球のバットの製造現場を撮らせていただいた。

 最初に訪れたのは、ゴルフクラブを製造しているフロアだ。

 ちょっと変わったレイアウト。ベルトコンベヤーなどによる明瞭な流れ作業のラインを想像していたがそうではなく、かといってひとりが全てを組み立てる「ひとり屋台」方式でもない。

 一見渾然(こんぜん)として見えるのだが、そこがノウハウ。生産ラインの見直しによって、効率は飛躍的に向上したのだとか。

 そうした工夫で生産性が大きく変わるのは、ひとが携わる工程が幅を利かせているからともいえる。無人化による全自動の生産が「良し」とされる昨今だけど、単純な大量生産ではなく、必要なものを必要なだけ作りたい工場にとって機械はあくまで道具であり、主役はひとである。ひとが動きやすいレイアウトの追求こそ、最大の課題なのだ。

 社内の技術認定制度の最高位…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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