「アップル税」。この春、こう揶揄(やゆ)もされる手数料を、アプリ事業者が回避できる道が開けた。米アップルがアプリストアのルールを緩和し、利用者をアプリの外へ誘導して料金を決済させることを初めて許容したためだ。直接のきっかけは日本の公正取引委員会の調査だった。異例の譲歩の裏には、アップルが投入した「専門チーム」と、行政処分を辞さない構えを見せた公取委の5年間にわたる水面下での攻防があった。
霞が関に現れたアップルの「専門チーム」
東京・霞が関の日比谷公園前に立つ中央合同庁舎6号館B棟。ここに入る公取委を、遅くとも2016年秋ごろ以降、アップル関係者が定期的に訪れていた。
アップル本社が送り込んでいたのは、自前の競争法(独占禁止法)専門チームだ。
複数の関係者によると、メンバーのほとんどが米司法省など、日本の公取委にあたる競争当局から転じた専門家らで構成。世界各国で行われる同社への競争法違反調査や政府系の公聴会などに対応しているという。
チームを知る人は「競争法や経済学の見識では全く抜け目がない」「ハードネゴシエーター」などと口をそろえる。
公取委は16年秋、アップルに対し、正式に独禁法違反調査を始めた。公取委の審査官のヒアリングには、チームが来日し、対応していたという。他の公取委の事件では、日本国内の専門の弁護士が代理人として調査に対応することが多いなか、異例だ。
関係者の一人は「一国での当局対応を誤れば、世界でのビジネス戦略に影響しうるからだろう」と推測する。
アップルには二つの違反容疑がかかっていた。
一つは日本の携帯大手3社とのiPhoneの供給契約をめぐるものだ。公取委は、3社が顧客と一定期間の契約を結んで販売する際に、端末代金を値引きするよう義務づけていたことなどを問題視。こちらは18年夏にアップルの改善で決着した。
2021年9月、米アップルと公正取引委員会が突如、いわゆる「アップル税」をめぐり、アップルが改善措置をとることになったと発表し、業界を驚かせました。 今年3月には改善措置が約束通り実施されましたが、ここに至る前にいったい何があったのか――。今回、複数の関係者への取材で、公取委が直前に行政処分を出す方針を固めていたことなどが新た判明。記事後半でアップル側の動きや、公取委内部から聞こえる「嘆き」などにも触れつつ、日本の競争当局による巨大IT企業への違反調査の内情をたどります。
追って本格化したのが、今回…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル