ハンセン病の問題を伝える1本のアニメーションが完成した。差別や偏見に苦しめられた元患者と家族の実体験をもとにしたアニメは、問題を広く知ってもらう「入り口」になると期待される一方、どう活用し、差別解消につなげるかが課題だ。
タイトルは「ハンセン病問題を知る 元患者と家族の思い」。19年6月の家族訴訟の熊本地裁判決を受けて、偏見と差別の解消を目的に、法務省が今春、34分のDVD作品として制作した。予算は1100万円。
「この島には私たちが入る療養所しかないんだよ」。アニメは、瀬戸内海の孤島にある療養所「大島青松園」(香川県)に、森和男さん(81)が9歳で入所した場面から始まる。
親と離ればなれの生活。将来を悲観した友達が自ら命を絶つ出来事もあった。いったん病が回復して社会に復帰。大学に進学したのち商社に就職を果たしたが、隠して生きることで変調を来し、再び療養所へ戻った半生が描かれている。
森さんは「わかりやすい形で伝えることは大事なこと」とアニメに賛同し、コロナ禍の昨年、制作スタッフのリモート取材に応じた。「隔離された悲しみや痛み、喜び、それでも懸命に生きたことを知ってほしい。高齢化して語り部も減って、コロナで会うことが難しくても、授業などで広く活用してもらえるのではないか」と森さんは語る。
「菊池恵楓園」(熊本県)の志村康さん(88)は元患者による国賠訴訟の最初の原告だ。「私がなぜ本名を言えないのか考えてもらいたい」と裁判官に問うたこと、生まれることが許されなかった我が子への思いなどを作中で明かす。
家族の立場では福岡市の林力さん(97)が登場する。患者の父親との関わりや人生に受けた影響などを伝える。隔離政策の歴史や実態は、国立ハンセン病資料館の学芸員が解説する。
法務省によると、DVDを4千セット、内容をまとめた冊子9万8千部をつくり、全国の法務局や自治体に配布。動画投稿サイト「ユーチューブ」の法務省チャンネルでも公開中だ。
国の「ハンセン病に係る偏見差別の解消のための施策検討会」座長の内田博文・九大名誉教授は、啓発のあり方のひとつとしてアニメを評価しつつ、活用の仕方が重要だと指摘する。「見られなければ啓発にならない。学校の先生はどう伝えればいいか困っていると聞く。文部科学省などと話し合い、広く活用される場を探してほしい」(高木智子)
認識変わらず「教育充実を」
今夏発足した国の「ハンセン病に係る偏見差別の解消のための施策検討会」は、偏見と差別を除去する責任が国にあると認めた2019年の熊本地裁判決の後、設置が決まったものだ。従来の啓発では、問題が解消されないとして、広報や人権教育などのあり方を見直す。アニメを活用した啓発についても話し合う可能性がある。
検討会は、人権や近代史の専…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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