1月28日朝、岩手県大槌町の小久保海岸。新おおつち漁協の芳賀光さん(47)が重いボンベをつけて潜った海には海藻がなく、砂漠のようだ。岩礁にはウニばかり。磯焼けだ。
手当たり次第にウニをハンマーでつぶす。芳賀さんらダイバー3人、2時間で3千個。藻を食べつくし、ほとんど身は入っていない。海中の延長600メートルのロープも補修した。養殖コンブの芽を刺し、2カ月前に張ったものだ。「ウニ退治」は今季16回目。前日にあった研究報告会で、春から夏にかけてはウニ漁に精を出す芳賀さんが、藻場を守るための取り組みを訴えた。「コンブを植えても、翌年潜ったらほとんど残っていない」
岩手県によると、2015年に沿岸で2300ヘクタールあった藻場が、20年度には1600ヘクタールほどまで減少。東日本大震災前の3500ヘクタールと比べると半減した。
アワビのえさを食べ尽くすウニ
東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センター(大槌町)の早川淳助教らが震災前後の大槌湾で、ウニとアワビの密度を調べたところ、ともに津波で稚貝が流れたが、その後、ウニがアワビとの競争に勝って個体の密度が高くなったという。アワビのえさとなる海藻をウニが食べ尽くし、藻場は衰えてアワビはとれなくなる。そんな循環に陥っている。
アワビの漁獲高は岩手県が全国一だが、岩手県漁連によると共販実績は09年度が413トンだったのが2021年度は81トンに。この5年間で4割以下になった。
岩手県は昨年3月、通称「藻場ビジョン」を策定し、5カ年計画で藻場再生をめざす。水産研究・教育機構水産研究所沿岸生態系寒流域グループの高見秀輝グループ長は「現状でウニは1平方メートルあたり10個ほど。これを1~3個まで減らさないとアワビは回復しない。コンブは発芽する1月下旬ごろにウニに食べられやすく、この時期にウニを駆除することが重要だ」と話す。
藻場が衰え、焼け野原のようになる「磯焼け」が広がっています。100年前から各地で直面していますが、たくましいウニと地球温暖化に漁業者は新たな苦難を強いられています。ウニをつぶし、コンブやアワビを守るーー。後半では、「拾いコンブ」の産地からリポートします。
■素手でとれる天然コンブも危…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル