エエカゲンがおもしろい 京大名物の数学者が説いた「生き方」の解

 数学者で京大名誉教授、評論家としても活躍した森毅さん(1928~2010)。20年前、記者は「人との距離」について若者への指南をお願いした。ジコチューと個人主義の違いって? 他者との風通しよい関係はどう築く?――飄々(ひょうひょう)とした森さんの語りと笑顔を思い出しながら、関係者を訪ね歩いた。

京大で最後の講義をする森毅さん=1991年1月、亀井哲治郎さん提供

 「一匹コウモリ」。社会学者で京大名誉教授の伊藤公雄さん(70)は、森さん本人も公認だった愛称を懐かしむ。

 1970年代前半、学生運動が続いていた京大で、教養部で教える40代の森さんは、学生との裏交渉にあたっていた。ノンセクト、セクト、民青など、それぞれの「シマ」を回遊する。自宅訪問も拒まない。誰の味方にもならない姿勢を悪く言う人はいなかったと、伊藤さんは言う。

 「信頼されてましたね。やじ馬で、いつもニヤニヤと面白がりで、ただし誰も傷つけず裏切らない。『乱調の中のバランス』というかな」

 『エエカゲンが面白い』はその少し前の60年代末から70年代末にかけて発表した文章を編んだ。晩年に出した教育論や人生論のエッセーと比べ、文章が精緻(せいち)で硬い。「錯雑した状況をなんとか論理化しようと七転八倒」した60年代とか、大学も社会も管理と閉塞(へいそく)が強まっていく「ふやけた」70年代の「総括」とか。

人間として「おもろい」か 威張らず、柔軟に探求

 特に疑問を呈したのが日本社会に横たわる「Xのために滅私奉公」という発想の構造である。戦争中はお国のため、戦後は人民のため、高度成長期になると会社のため。そんな単線思考を戒める。

エエカゲンが面白い(ちくま文庫)

親本は『数学のある風景』(海鳴社)。話題は通信簿、中教審、秀才論、公理主義の変容など幅広い。「大学サボリ道入門」は、高校までに身についた「『勤勉』という名の知的怠惰」の卒業へいざなう。91年に改題、ちくま文庫。3万4千部(品切れ)。

 肝心なのは人間として「おも…

この記事は会員記事です。残り1641文字無料会員になると月5本までお読みいただけます。

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

Japonologie:
Leave a Comment