連載「住まいのかたち」⑧
夜、寝室に身を横たえていると、向かいの家の屋外照明がともった。照らされた寝室の障子は、幾何学模様の陰影を室内に映し出す。ティモシー・メドロックさん(54)は、そんな瞬間にこの家の魅力を感じる。白と茶、光と影、今と昔。京町家はコントラストに満ちている。
京都御所から歩いて15分ほど。住宅街の路地を進むと、両脇にそれぞれ5軒続きの町家が現れる。そのうち一軒に妻麻弥(まや)さん(44)と小学6年生の息子(11)と暮らし、大学で西洋古典文学を教える。
70年以上前に建てられた町家群は、もともとの姿を生かしながら2014年にリノベーションされ、5軒のうち2軒はつなぎ合わせて一つになった。一家はその直後、ロフトを入れれば約130平方メートルになるこの町家に越してきた。
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ロンドンに近い英国南東部の町で生まれ育った。幼いころ、家族5人が暮らしていたのは、れんが造りの2階建て。広いリビングとダイニングに加え、家族それぞれの寝室がある。
柔道や空手に慣れ親しみ、大学生の時にロンドンでみた歌舞伎役者の舞台に感銘を受けた。日本の舞台芸術に憧れ、27歳で来日。京都の英会話学校で働きながら狂言や日本舞踊を学んだ。
6年ほどは家を転々とした。風呂のないアパートでは、毎日近くの銭湯に通う生活。家はただ住むためだけのものだった。
印象的だったのは、デンマーク人の茶道の師範が住んでいた、銀閣寺近くの一軒家。8畳ほどの1室を間借りし、畳や茶室、日本庭園に興奮した。ただ家は古く、洗濯機や浴室もない。「住みにくそうだ」という思いが残った。
家の外にあったトイレは
43歳の時に遠距離恋愛を続…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル