カラス研究の第一人者、動物行動学者の松原始さん(53)=東京大学総合研究博物館特任准教授=は子どもの頃、夏休みは朝から晩まで裏山で遊んで過ごし、「大した自由研究をやった記憶がない」。でも、その頃の体験が、今の研究につながっているといいます。
特に印象に残っているのが、理科の教師だった父親の言葉だそうです。「観察」を大切にする研究の原点を聞きました。
――カラスにはネガティブなイメージもありますが、著書の一つ、「カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?」などで、そうした固定観念への問題提起をしておられます。
カラス、そこまで嫌わなくても良くない?と思います。
カラスは、生態系のありとあらゆるところに顔を出す、ものすごくマルチタスクな鳥ですが、一方で意外と間抜けなところがあります。それに、人の顔を覚えることも含めて、カラスにできることってほぼハトにもできるんですよ。時間はかかりますけど。
――カラスが飛んできたら襲われそう、と怖がる人も多いですが……。
カラスは基本、子ガラスを守る時以外は人に手を出さないので、ほうっておいて大丈夫ですよ。カラスの方が人をよけますから。
だって公園に何百羽といたって、人間が集中的に蹴られたって話、聞いたことないでしょ?
外でご飯を食べている時にカラスが寄ってきたら?
――でも、例えば外で昼ご飯などを食べている時にカラスが寄ってきたら、どうしたらいいんでしょう?
その辺まで寄ってきて、「それくれないの」って見に来るとは思いますけど、「やらねえよ」って言えばいいんです。そこでシッシッとか言っても、「ケチー」みたいな顔をして逃げるだけで、怒んないですよ。
――カラスには、子どもの頃から興味があったんですか?
カラスそのものには、小学校に入るかどうかぐらいで興味を持ちました。
うちの近くにカラスのねぐらがありまして、秋になると夕方、100~200羽が次々と群れを成して、カーカーと鳴きながらうちの上を飛び越えて行くんですよ。
こっちからカーって言ったら返事しねえかと思って、下からカーって言ってみたら、鳴きました。
後になって考えると、返事かどうかわかんないですよね。ですが、とにかくその頃から、カラスって「鳴いたら返事するちょっと面白いやつ」っていう位置づけになりました。
――それで、カラス研究をするために大学へ?
いえいえ。大学に行くまで、カラスは放置でした。
京都大学理学部に入学し、動物学でフィールドワークをやってみたいと思い、大学のサークル「野生生物研究会」にも入りました。そこで、自分でやりたいものは何か自問自答した時に、記憶をたどってカラスに気づいたんです。
ただし、カラスは先行研究もほぼゼロ。先行者がいないのは、網をおろしても何も取れないからではないか、とも思いました。
でも、別に結果が出なくてもいいか、と。元来の「記述」「観察」好きから、とりあえずカラスを眺めてやろうと思いました。
そう思えたのも、おやじの言葉がありました。
「とりあえずカラスを眺めよう」 きっかけをくれた言葉
――どんな言葉ですか。
おやじは高校で理科の教師をやっていて、小学校の頃、こんなことを言われました。
「やってみて、結果で何かが…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル