新型コロナウイルスによって海外渡航が制限されるなか、現地での戦没者慰霊ができない状況が続いている。高齢化が進む遺族には「なんとか体力があるうちに再訪したい」という思いが強く、慰霊が途切れることに気をもむ。収束が見通せないなか、現地をオンラインでつないだ慰霊ツアーも企画されている。
南太平洋のビスマーク・ソロモン諸島方面で戦った生存者やその遺族らでつくる「全国ソロモン会」。激戦地のガダルカナル島などで毎年、慰霊巡拝を重ねてきたが、コロナ禍で今年は中止となった。
ガダルカナル島の戦いでは、病死や餓死などで多くの犠牲者がでた。戦闘に加わった将兵3万人のうち、2万人以上が死亡したとされる。叔父が戦死した松本博道さん(75)=千葉県市川市=は、昨年の慰霊巡拝に参加した。叔父がいた部隊の慰霊碑を建てようと準備を進め、今年の訪問時に作業を終える予定だった。「いまの状況はやむを得ない、と自分に言い聞かせている」。
同会の会員は約220人。同会に所属する戦地の最後の生存者だった男性が昨秋に102歳で亡くなり、遺族の高齢化も進む。事務局の崎津寛光さん(48)によると、遺族は「お彼岸があるのと同じように、『また会いにきたよ』という思い」で毎年慰霊してきたという。
来夏はガダルカナル島の戦いから80年の節目となり、会として大規模な慰霊訪問を予定する。崎津さんは「現地のワクチン普及次第では、来年も厳しいかもしれない。なんとか収束してほしい」と願う。
厚生労働省によると、国の事業による慰霊巡拝や遺骨収集は、沖縄と硫黄島(東京都)を除いて昨年度から中止した。派遣地域の感染症危険情報がレベル2(不要不急の渡航をやめるよう呼びかけ)以上のためだ。遺骨収集について「発掘地点はGPSなどで目印がわかるため作業に支障はない。今年度も難しいが、行けるよう準備はしている」という。
日本遺族会も、国の補助金で毎年慰霊の友好親善事業を重ねてきたが、昨年度はすべて中止された。激戦地となった島々は、飛行機の乗り継ぎなどで移動時間が10時間以上かかるケースも多く、密林を含む現地での移動は容易ではない。「高齢者は体力も限られ、この1年は大きい。『最後にもう1回いきたい』という方もおり、残念だ」と会の担当者はこぼす。
現地訪問が見通せないなか、旅行会社は代わりとなる慰霊の旅を模索する。
JTBは「オンライン慰霊ツアー」を企画し、参加者を募っている。場所は激戦地のフィリピン・ルソン島で、カリラヤの日本人戦没者の慰霊園をガイドが訪れ、現地から中継する。遺族らの代わりに慰霊や献花をすることも検討している。担当者は「海外に行くことが厳しいいま、遺族の方からの要望も強く、社会的価値のあるツアーをしたかった」。1人以上から参加可能で、利用者の要望に応じて現地の訪問先を決めるという。
HISは昨夏から、サイパンの戦跡ツアーを実施した。40~50代を中心に約60人が参加した。共同で企画した現地の旅行会社によると、戦没者の関係者も複数いたという。日本軍の兵士や民間人が身を投じた岬や司令部跡などを現地スタッフの解説とともに、オンライン動画で紹介した。HISは今後、現地での環境が整えば、ツアー再開を検討したいという。(小川崇)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル