聞き手・田添聖史
「かい人21面相」を名乗る犯人グループが食品企業を脅迫した「グリコ・森永事件」の発生から今年で40年となった。事件を題材に小説「罪の声」(講談社)を執筆した作家の塩田武士さん(44)は、未解決に終わった事件の「大きすぎる引力」を感じつつ、「決定的に欠けている」ものがあると断じる。
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事件が起きたのは5歳になる頃でした。兵庫県尼崎市に住んでいたので、母から「お菓子食べたらあかんで」とよく言われたのを覚えています。
小説の題材にしようと考えたのは大学生のときです。学食のテラスで事件を題材にした1冊を読み、犯人側の音声テープに子どもの声が使われたことを知ったんです。
その声の主は自分と同世代らしい。そう気づいて、鳥肌が立ちました。同じ関西に住んでいて、どこかですれ違っていたかもしれない。もしかすると同じ大学にいるかもしれない。一気に事件が身近に迫り、思わず辺りを見回しました。
同世代なのに、この子は僕と全く違う人生を送ってきたに違いない。この子の人生を書きたいと強く思いました。
グリコ・森永事件
1984年3月、江崎グリコ社長が誘拐され、現金10億円と金塊を要求された。犯人グループは、青酸ソーダ入りの菓子をスーパーなどに置き、森永製菓や丸大食品などの食品企業を次々に脅迫した。85年8月に突如、新聞社などに終結を宣言。2000年2月までに全ての事件の時効が成立した。犯人グループの1人は、その似顔絵から「キツネ目の男」と呼ばれる。
加わった親の視点、感じたいらだちとむなしさ
小説家としての「出力」を身につけようと、新聞記者を10年間やり、計8作品を書きました。そこでやっと、当時の担当編集者から「今なら書ける」とお墨付きをもらい、連載を始めました。事件から30年が過ぎた2015年、36歳のときのことです。
その頃には、2歳の長女がい…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル