東京出身で大阪に移住してきたライター、スズキナオさん(41)による大阪の居酒屋文化を掘り下げた著書が相次いで刊行されている。「安くてうまいが当たり前で、過剰にサービス精神が旺盛」というのがスズキさんの大阪の酒場評だ。
スズキさんは酒場ライターのパリッコさん(42)との共著3冊を手がけた後、昨年11月に単独の著書「深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと」を出版。版元の多くは東京だったが、8月末、大阪市此花区のシカク出版からエッセー「酒ともやしと横になる私」を刊行した。ウェブサイト・ケイクス通信での居酒屋ルポの連載をまとめた「関西酒場のろのろ日記」も9月末に発売された。
スズキさんは元々都内のIT企業で広告の仕事をしながらライターをしていたが、2014年、大阪市出身の妻が家業を継ぐことになったのを機に、会社を辞めて大阪市都島区へ移住。筆一本の生活を始めた。それまでも街歩きや酒場をテーマに書いていたが、関西でも大衆的な飲み屋を取り上げている。
「飲み物、食べ物の安さにも目をみはる」「適度に開放感があって居心地がよく」――。最新刊の「関西酒場のろのろ日記」では、天満や京橋、梅田、天王寺などの居酒屋を訪ね歩いた。「東京の古い店では流儀があり緊張して飲むことがあるが、大阪の店は時代の変化に柔軟。客同士の距離感が近く、けんかしていると思ったらボケとツッコミのやり取りだったことがある。酔客同士のいさかいを収める力が店にある」と話す。
ここ10年ほどは酒場詩人吉田類さんらが注目を集め、大衆酒場ブームといわれる。スズキさんは「飲むのはもっぱらビールとチューハイで、酒の銘柄へのこだわりもない。書きたいのはおもしろい人であり、その場の空気。あくまで移住者の視点から見つめていきたい」と言う。
個性派書店が後押し
スズキさんが知人の紹介で店番を週に2、3回したのが、当時北区中津3丁目にあったミニコミ誌書店のシカク。その一部門としてシカク出版がある。スズキさんは店のメールマガジンでコラムを担当。それをまとめたのが「酒ともやしと横になる私」だ。日常生活のぼやきや失敗談がつづられている。
シカクはたけしげみゆき代表(30)が11年に仲間と2人で開いた。現在は此花区梅香1丁目、阪神なんば線千鳥橋から歩いて約5分の住宅街にあり、リトルプレス(少部数の自主制作出版物)約千五百誌やCD、雑貨などをそろえる。「どこにでもある本は置いていません。多少へんぴな場所でもじっくり選べるようにしたかった」とたけしげさん。
その一方で、異国や食など様々な最果てをルポした金原みわ著「さいはて紀行」など、独自路線の本約10冊を出版してきた。スズキさんの文章について、たけしげさんは「気持ちはかき乱されないけれど、ハッとする言葉があり、読み心地が独特です」と評する。
シカクの営業は午後1~7時(火、水曜が休み)。海外から来る客もいるといい、たけしげさんは「夢は海外の書店でシカクのコーナーを設けることです」と話す。(川本裕司)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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