年が明け、いよいよ受験シーズンを迎えました。16日には大学入学共通テストが始まります。各界で活躍する受験経験者や、さまざまな分野で学びを深めている現役大学生・大学院生たちからの、受験生へのメッセージを随時お届けします。
東北大工学部4年の中屋悠資さん(22)は、大学でAIなどの研究をしながら、3年時に起業したAI関連のベンチャー企業で副社長を務めている。
兵庫県宝塚市の出身。祖母の病気をきっかけに、中学まではぼんやりと医者を目指していた。だが、私立高校で得意の数学を磨こうと数理科学部に入ったのが転機に。顧問の先生に「世界で誰もやらないことを目指せ」と激励され、医療を発展させる技術の開発に興味を持ったという。
医療に近い工学を学べる進学先を探し、東北大を見つけた。三つある入試方式の中で選んだのが最も早い11月に合格が決まる「AO入試Ⅱ期」だ。学力とともに、面接や書類審査で目的意識を持って学ぶ意欲も重視されるため、塾などで一般入試に向けた勉強をしながら、学生が書いた論文も読んで各研究室の特徴を把握。面接では「医工学の領域に切り込んだ研究をしたい」とアピールしたという。
入学後しばらくは医学部の授業も受けていたが、しだいにプログラミングの魅力に引きつけられていったという。「理論を勉強しても、形になるまで時間がかかる。プログラミングは、アイデアをすぐに社会で使える形にできる点がおもしろい」
ITベンチャーでプログラミングのアルバイトをしていたところ、一つ上の工学部の先輩に声をかけられた。「東北大の先生が開発したアルゴリズムをもとに、新しいAIを作らないか」。一昨年6月、医療や危険予測などで活躍できる次世代AIを開発するため、「Adansons(アダンソンズ)」を立ち上げた。副社長として、東北大生を中心に約15人の学生社員を束ねつつ、大企業に営業をかけたり、予算のやりくりを考えたりと忙しい日々を送る。
今春からは東北大大学院で、「技術をどのように社会に生かすか」をテーマに研究を始めるが、経営も続けるつもりだ。「人間関係など大変なこともあるが、だれもやっていないことをゼロから作り上げる楽しさがたまらない。後輩のみなさんにも、ぜひ恐れずに起業にチャレンジしてほしい」
入試改革の迷走やコロナ禍で振り回されてきた今年の受験生に伝えたいのは、「他の年の受験生が経験したことがない苦労を重ねたことは、今後の人生に必ず生きる」ということ。コロナ禍で取引先を失うなどの打撃を受けた副社長は、自らにも言い聞かせるように言った。(増谷文生)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル