コロナ禍の空虚感「からっぽの箱」 中2の詩に最高賞

 福岡県柳川市出身の「詩聖」北原白秋をしのび、見聞きしたことを詩で表現する力を育てる「白秋献詩」の今年の選考結果が同市教育委員会から発表された。最高賞の文部科学大臣賞には福岡教育大付属久留米中2年、石橋紺花子(かなこ)さん(13)の「からっぽの箱」が選ばれた。新型コロナウイルスによる「空虚感」が見事に表現されている。

 市教委によると、小学生から大人まで全国から6444点の応募があった。昨年度より1823点減った。新型コロナにより学校の夏休みが短縮された影響と見られる。応募作には、新型コロナで生活が一変したこの時代の様相を書き残そうとするものが多かったという。

 「からっぽの箱」もその一つで、石橋さんは「コロナ禍で初めて聞く言葉や情報があふれる中、だれもが感じた不安や恐怖と、今まで築いた生活様式、文化、経済が奪われていく空虚感を『からっぽの箱』で表現しました」と話している。

 新型コロナにより「パンデミック」「クラスター」「ソーシャルディスタンス」など、様々なカタカナ語が飛び交っている。だが、石橋さんはこれらの言葉を避け、「耳慣れない言葉たち」と表現。その結果、かえって、これまでと違う未知の日常が訪れたことを、読む者に強く感じさせることに成功している。

 「からっぽの箱」は、白秋の命日にあたる11月2日に柳川市の白秋詩碑苑で本人の朗読で披露される。(森川愛彦)

 「からっぽの箱」

 耳慣れない言葉たちで溢(あふ)れていた朝

 当たり前の日常が遠い昔話のような奇跡

 目の前には空っぽの箱

 夥(おびただ)しい数の

 弱さや嘘(うそ)に守られ築いてきた虚構は

 跡形もなく消えていった

 心に灯(とも)る希望の中に現れた見えない敵は

 あらゆるものを停滞させ

 手探りの長い闘いに向かわせる

 不安を煽(あお)り 騙(だま)し 巧みな言葉で欺く

 噂(うわさ)に振り回され 数に脅かされる

 変わりゆくもの 変わらないもの

 忘れてはいないだろうか

 空の青 海の群青

 木々の緑 夕焼けの茜(あかね)

 日々は彩られ輝いていたことを

 降りしきる雨で荒(すさ)んだ感情を洗おう

 平坦(へいたん)でない毎日に涙があふれても

 天を仰ぎ 目を凝らし

 静かに覚悟をして一歩を踏み出す

 耳慣れない言葉たちが日常となった朝

 目の前には空っぽの箱

 見えない希望や理想を敷き詰め

 新しい軌跡を残していく

 道なき道をさまよっているようで

 真実の上を歩き始めた

 未来はこの手でつくっていくんだ


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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