港町・神戸には、賑やかな都会とは別の顔もある。野生動物との「距離」を模索する先進地としての顔だ。
クリスマス前に、市街地に隣接する六甲山系の一角に立った。山の斜面から見下ろすと、中心部の三宮や人工島ポートアイランドのまばゆい明かりが目に飛び込んでくる。
その輝きが映えるほどに山の中は暗い。家路につく子どもの声、踏切の警報、風の音が聞こえてきた。背後の暗闇にふと意識が向く。冬の澄んだ空気が運ぶ街の音に葉っぱがすれたような音が混じり始めた。周囲はハイキングコースでもある。散歩の人だろうか。
「誰かいますか」
答えはなかった。問いかけながら、少しだけ音がする方向に近づいてみた。暗闇に慣れた目をこらすと何かが動いている。
地面に生えたササの上で土を掘り返すイノシシだった。私たちに気づいても、逃げようともしなかった。
山から夜景を見下ろそうと思ったのは、野生動物たちがすむ森から、街はどう見えるだろう、と考えたからだ。住宅街まで山道を歩いて15分。互いの生息域は暗闇の中で接している。
野生動物の数が増えて「密」になり、山から下りる数が増える――。世界各地でそんな問題が起きている。人間による都市化ではなく、野生動物が、人間の生息域に入り込む、「動物の都市化」だ。
例えば、イノシシ。緑豊かなドイツ・ベルリンの公園や、スペイン・バルセロナでは住宅地のプールに出没している。イタリアのローマでは、市街地のゴミ箱をあさる「大群」が目撃されている。
イタリアの生態学者の発表によると、イノシシだけでもヨーロッパの18カ国100都市以上でその姿が確認されているという。
新型コロナウイルスは、コウモリ由来とされる。人間と動物の両方に感染する「人獣共通感染症」の脅威。人間が野生動物に近づきすぎたのか。だとしたら離れる方法はあるのか。世界の動きを止めた感染症を、野生動物との「距離」という視点から考える。
兵庫県は、コロナ禍の前から…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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