編集委員・吉田純子
コントラバスを電車に持ち込めるかどうか――。ある奏者の問いかけをきっかけに、SNSを中心に是非の議論が巻き起こった。楽器の大きさゆえの反響だが、それでも公共交通機関を使わざるを得ない事情があるという。
コントラバスのハードケースは飛行機などの格納庫に入れることを想定し、格別に頑丈に作られている。カルロス・ゴーン氏が楽器ケースに隠れて逃亡したとのうわさが立ったとき、真っ先に疑われたのがコントラバスのケースだった。
「他のお客様への配慮は大前提ですが、コントラバスを電車で運ぶこと自体が非常識ということではありません」と公演運営の責任者である東京フィルハーモニー交響楽団のステージマネジャー、大田淳志さんは語る。「電車移動を想定したソフトケース専用の車輪付きキャリーも、普通に市販されています。オーケストラでは楽器車での運搬が原則ですが、楽員が自分の楽器を公共機関で運ぶこともあります」
一人の楽員が、異なる会場で昼夜の公演を掛け持ちすることも少なくない。渋滞の可能性を鑑みると、繁忙期の車やトラックでの移動が現実的ではないと思われるケースもある。指揮者の小澤征爾さんが、恩師のカラヤンに「オーケストラの仕事では、1回の遅刻も許されない。移動に車を使ってはならない」と厳命されていたという有名な逸話もある。
コントラバス奏者の布施砂丘彦さん(27)は中学以来、楽器を持って日常的に公共交通機関を利用している。なるべくすいている時間帯を狙うが、混雑している時はやむなく扉脇の壁側に楽器を置き、両足で楽器を挟み込むようにし、自らの体をクッションにして立つことを心がけている。
「多くの楽器は奏者個人のものではなく、未来へと受け継がれるべき公共の財産です。実際に鳴り響くホールだけではなく、ある種の人格を持った存在として、公共空間で一般の人々と『共存』している。そうした意識も一般の人々と共有することができたらいいなと思います」(編集委員・吉田純子)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル