ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏(2019年に死去)の所属タレントへの性加害問題については、1999年ごろから週刊文春がキャンペーン報道を展開するなどしていました。日本の新聞やテレビなど大手メディアが早い段階から十分に報じなかったことについて、批判の声があがっています。何が欠けていたのでしょうか。3人の専門家に聞きました。
問われた日本メディアの「横並び体質」
【音好宏・上智大教授(メディア論)】
ジャニーズ事務所の性加害問題と報道について考える際には、まず、ジャニーズ事務所という芸能プロダクションがどのようにして大きくなったのかを知ることが必要です。
ほかの芸能プロダクションとは違い、男性タレントの養成に特化。単に歌や踊りができるだけでなく、しゃべりもうまく、1990年代以降は音楽番組だけでなく、バラエティー、ドラマ、報道番組まで活動の場を広げていきました。テレビ局、ひいては時代のニーズともマッチしていました。
所属タレントのメディア露出が増えるほど、事務所は発言力を強めていきました。テレビ局にとっては、ジャニーズ事務所は視聴者を集めることができる有力プロダクションである一方、いろんな要求をしてくる相手でもあった。
それが顕在化したのが、2019年に発覚したSMAPをめぐる問題です。元メンバーをテレビ番組に出演させないよう圧力をかけた場合は独占禁止法に触れるおそれがあるということで、公正取引委員会がジャニーズ事務所に対して注意しました。
テレビの場合は、こうした事情が「報道しにくさ」につながっていましたが、新聞の場合は、こうしたしがらみは少ないはずです。ただ、新聞社の社内的なヘゲモニー(覇権)として、芸能は、政治・経済・社会の話題の次という位置付けだった。そうした報道は週刊誌の役割だという意識もあったのではないでしょうか。
新聞の重要な役割の一つは権力監視ですが、ジャニーズ事務所も「権力」になっているということに気づけなかったのだと思います。
「ニュースかどうか」を判断する際の新聞社独自の姿勢も影響していると思います。例えば「疑惑の段階では記事化を控える一方、逮捕の執行や判決が出るなど、警察や司法の判断が記事化に強く影響する」といったことです。週刊誌などと比べて厳格な掲載基準があるからこそ、信頼につながっているという面もありますが、その論理やルールが市民感覚から離れていないかを議論してこなかったことは問われるべきです。
印象的だったのは、今年3月に英BBCがドキュメンタリーを放送した後は、報道各社が急に積極的になったことです。「誰かが報道を始めたから怖くないぞ」とばかりになだれ込む。この「横並び体質」も、日本のジャーナリズムの特徴だと思います。
今回は、加害側の当事者が亡くなっていて、反論できないといった事情もあります。ただ、現実に被害を訴える人が多く存在しています。なぜ報じてこられなかったのかをしっかり検証することには、意味があると考えています。
「触れられない」 テレビ局が自主規制
【民放元プロデューサーの吉野嘉高・筑紫女学園大教授(メディア論)】
90年代に週刊文春の報道があった頃、主にニュース番組を担当していました。具体的な事実を把握していたわけではありませんが、この問題に触れることができないことは、業界内の「暗黙の了解」でした。
人気タレントを多く抱えるジ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル