36人が死亡した2019年の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第11回公判が2日、京都地裁であった。京都市消防局員と京アニの八田英明社長の証人尋問が行われ、現場の京アニ第1スタジオの構造や防火対策を説明した。
消防局員は事件後の21年4月、建物に消防法上の違反がないかなどを確認する部署に係長として配属され、消防局の保管資料を読んだ記憶を元に証言した。
検察側の質問に対し、局員は、第1スタジオには消火器や非常警報設備が正しく設置され、消防法や建築基準法上の「不備はなかった」とし、京アニによる半年に一度の点検も行われていたとした。青葉被告がガソリンに放火した点を強調し、「揮発性が高く、すぐに着火しやすく、燃え広がりやすい危険性が高いものだ」と指摘した。
消防訓練も事件の直近では18年11月、京アニ社員約70人が参加して実施されたと説明。訓練は、スタジオ3階の炊事場で出火したという想定だったとし、「1~2階は火の気が出るようなところがない。屋内階段を使って1階から屋外に逃げる訓練だった」とした。
弁護側は、青葉被告が有罪だとしても、スタジオの構造が被害拡大に影響を与えた可能性を訴えている。尋問では「スタジオ屋上の出入り口の扉は開いていなかった」という消防隊員や、「扉には二つ鍵がついており、開け方がややこしかった」「屋上に向かう階段に段ボールが積まれ、人が1人通る幅しかなかった」という被害者の供述調書を読み上げた上で尋ねた。
消防局員は段ボールについて「物はない方が良いに決まっている」と述べたが、「階下へ避難するのが基本で(屋上への階段は)避難経路として通常は見ない」と指摘。消防から京アニに是正指導をした記録も残っていないとし、問題はないとの認識を示した。火の回りを早めたとの指摘がある3階まで吹き抜けのらせん階段については「縦方向に行く煙や炎は速い。影響はなかったとは言えないと思う」と述べた。
八田社長への尋問でも、構造の質問があった。八田社長によると07年につくり、「法令に準じている」と述べた。設計で意識したのは「人に優しい、目に優しいということ。アニメーターは部屋の中で仕事をするので、木をふんだんに使った」と説明。らせん階段を設けた理由について「アニメを作るにはコミュニケーションが大事。(各階が)同じ雰囲気になるように意識し、効率性も大事にした」と述べた。
京アニ社長「人のアイデアを盗む会社ではない」
自身の社員を「人は宝です」と表現し、青葉被告が主張する盗用に関しては「当社は人様のアイデアを盗んだりできる会社ではない。被告の思い込みで事件が起きたことは断腸の思い」と答えた。
裁判の争点は、責任能力の有無や程度で、検察側は「盗用されたと思い込み、筋違いの恨みによる復讐(ふくしゅう)」に及んだと指摘し、完全責任能力があったと主張。弁護側は「闇の人物と京アニが一体となって、自分に嫌がらせをしていると混乱した」と反論し、心神喪失で無罪と訴えている。(光墨祥吾、北沢拓也)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル