高橋孝二
ミャンマーのアウンサンスーチー氏が保有する日本刀が、刀剣作りが盛んな岡山県瀬戸内市に持ち込まれ、地元職人らによる1年がかりの修復作業が終わった。スーチー氏は国軍のクーデターが起きた2月以来、拘束が続く。6日、依頼元の日本財団(東京)に引き渡した職人らは、刀が持ち主へ戻る日を待つ。
刀は刃長69・1センチ。柄(つか)に収まる茎(なかご)の刻印から、愛媛を拠点とし、刀工として初の重要無形文化財保持者(人間国宝)となった高橋貞次氏の作とされる。
日本財団などによると、第2次世界大戦中、ビルマ(現ミャンマー)を担当する陸軍中将へ贈られ、その後、スーチー氏の父で独立運動を率いたアウンサン将軍に渡ったとみられる。
スーチー氏側が昨年、さびが目立つ日本刀の修復を日本財団に依頼。同10月、瀬戸内市長船町の刀剣工房「備前おさふね刀剣の里」に持ち込まれ、11月から研ぎ師を中心に鞘師(さやし)や金工師、白銀師らによる作業が続いていた。
研ぎ師の横山智庸(とものぶ)さん(49)によると、さびはかなり深く、刀身がすり減らないよう気を配ったという。刀身をおさめる白鞘なども鞘師らが新たに制作。よみがえった刀身には、備前伝の技法を得意とした高橋氏の刃文「丁子(ちょうじ)刃(ば)」が再び浮かんだ。
6日、横山さんは「雰囲気を変えないよう修復した」と説明。「お渡しできて、肩の荷が下りました」とほおを緩め、「いつか平和が戻ったミャンマーにお返しできれば」と話した。
輝きを取り戻した刀を受け取った日本財団の森祐次さん(68)は「刃こぼれもしていたのが、ここまできれいな刃文が出るとは。かつての輝きを見ることができて感無量です」と喜んだ。当面は財団が保管するという。(高橋孝二)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル