ウクライナのゼレンスキー大統領が広島を訪れた。母国に思いをはせて迎える避難者も、核の惨禍を知る被爆者も、ともに平和を願いつつ、訪問がもたらす未来を見つめる目には、期待と不安が入り交じる。
広島で核兵器廃絶運動を進めてきた森滝春子さん(84)=広島市佐伯区=は、ゼレンスキー氏の狙いは、軍事的な支援の強化を訴えることだろうと見る。ウクライナの人たちが自国を守りたいという思いも理解する。だが「戦争を一刻も早く止めるのが世界のウクライナに対する支援じゃないか」と訴える。
G7結束、ゼレンスキー氏の広島訪問、被爆者らの懸念
78年前の原爆投下時は、広島から山間部に疎開していて被爆を免れた。だが、戦後、孤児になった人など多くの被爆者を見てきた。その体験を原点に、戦後、平和運動を引っ張った父の思いを継ぎ、活動してきた。
G7サミットには、「西側諸国」だけで結束を強調することで、ロシアとの対立が深まるのではないかという懸念を抱いてきた。ゼレンスキー氏の広島訪問もその方向に働くことを危惧する。そうだとすれば「広島の意思に反する」と語る。「広島や世界中の人の闘いによる核兵器廃絶への道が遠くなってしまう。身を削った被爆者らの努力を水の泡にしてはいけない」と語る。
広島で被爆した田中稔子さん(84)=広島市東区=は、広島を訪れてG7首脳らと面会するゼレンスキー氏に「戦闘機を出してくれではなく、停戦を考えてくれないか、広島でみんなで平和をつくろうと呼びかけてほしい」と願う。
海外でも被爆体験を語ってきた田中さんは、2012年にウクライナを訪れた際、首都キーウで、原発事故があったチェルノブイリからの避難者とお互いの体験を語り合った。
ロシアがウクライナに侵攻した昨年、田中さんが「私に何ができますか」とメールを送ると、「あなたはあの原爆のときの惨状を話してください。核兵器が使われた時のことを知っているのだから、それを世界に発信し続けてください」とビデオメッセージが届いた。田中さんもつらい体験を話したいわけではない。だがその言葉を支えに証言を続ける。
平和記念公園にある慰霊碑の石棺に刻まれたメッセージ「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」は訪れる世界のすべての人々に向けられた誓いとされる。ゼレンスキー氏やG7の首脳には、核や戦争に脅かされる市民のことを考えてほしいと願っている。
「誰がいい、悪いではなくみんなの責任。それをもう一度思い返してほしい。このまま(侵攻が)続くと核が本当に使われるかもしれない。抑止力どころではないと気づいてほしい」
G7枠外の国との対話に注目
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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