いま振り返ると、世間知らずで恥ずかしい限りだった。石原由理さんは、10年前まで経営者の妻だった。
やりたくないことは人に任せて、お金で解決してきた。
東京・恵比寿のタワーマンションに住み、苦手な掃除は家事代行を頼んだ。
雨が降れば、タクシーに乗った。
エルメスのバッグは何個も持っていたし、30万~40万円するシャネルの時計もほしかったらすぐに買った。
夫は名古屋で会社を経営していた。自身は、海外の劇の脚本を翻訳する戯曲翻訳家。海外に行って取材し、資料を大量に買い集め、手がけた脚本は文学座などで上演された。収入はあったが、足りない分は夫のお金を使った。
そんな生活が一変したのは2013年。
仕事を続けながら東京大学大学院に進学し、半年経ったころだった。
天国から地獄
自宅でトイレに入ったら、何とも言えない体のしびれが襲ってきた。そのまま意識が遠のいた。
3日後、気が付いたら、病院のベッドの上にいた。脳梗塞(のうこうそく)で倒れたのだと知った。
3カ月入院して退院。後遺症で手足のまひと失語症が残った。
右手は全く力が入らず、化粧も、字を書くこともできない。
「言葉のプロ」だったのに、以前自分で書いた脚本さえ意味がよく理解できない。
「apple」「japan」といった簡単な英語が読めない。
言いたい言葉も、うまく出てこなかった。
「もう元の仕事はできない…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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