昨年末に放送されたNHK・BS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」に、取材内容と異なる字幕が付けられた問題で、制作したNHK大阪拠点放送局の角英夫局長・専務理事は13日、定例会見で「報道機関として最も守るべきことができていなかった」と改めて陳謝した。その上で「故意に架空の内容を作り上げた事実はない」として捏造(ねつぞう)ややらせにはあたらないとの考えを示した。有識者からは「事実上の捏造」「重大な放送倫理違反」といった指摘が出ている。
番組は、映画監督の河瀬直美さんらが東京五輪の公式記録映画を製作する現場に密着したもの。問題となっているのは番組後半、映画監督の島田角栄さんを追いかけたシーンだ。島田さんは河瀬さんの依頼を受け、五輪にまつわる様々な声を拾い上げようと、コロナ下でライブの開けなくなったミュージシャンや、逼迫(ひっぱく)する医療現場などを取材した。
この中に登場する匿名の男性について、番組では顔にモザイクをかけた上で「五輪反対デモに参加している」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」と字幕で説明した。
だが男性は、「これまで複数のデモに参加して現金を受け取ったことがあり、五輪反対のデモにも参加してお金を受け取ろうという意向がある」と、字幕内容と異なる趣旨の発言をしていたとNHKは説明している。
「思い込みで字幕」
会見に同席した堀岡淳・局長代行は「制作担当者が、男性が五輪反対デモに参加したと思い込み、事実関係の確認が不十分なまま字幕をつけた」と釈明。角局長は「取材、制作の過程で制作担当者間のコミュニケーション不足に加え、事実の確認とチェック体制が不十分だったことが原因」と述べ、捏造ではないかとの指摘に「意図的、または故意に架空の内容を作り上げたという事実はない」と改めて否定した。
男性はこの場面のあと、「デモは全部上の人がやるから、書いたやつを言ったあとに言うだけだから」「それは予定表をもらっているから、それを見て行くだけ」と発言。このシーンも五輪反対デモに関する証言だと印象づけるものではとの指摘に対し、角局長は「そこについて議論したことがなく、(現段階で)きちんとした回答ができない」と答えた。
昨年12月26日の放送後、視聴者から複数の問い合わせがあり、NHKは男性に再取材。しかし男性の記憶があいまいで、デモに参加した事実を確認することができなかったという。五輪反対デモの参加者らのネガティブなイメージを流布した責任を問われた角局長は、「深くおわび申し上げます。大変申し訳ありませんでした」と謝罪した。
NHKの前田晃伸会長も同日、定例会見で「河瀬さんや島田さんをはじめ映画関係者、視聴者に本当に申し訳ない。改めておわびします」と陳謝した。「制作段階でチェックする仕組みはできあがっているが、十分に働かなかったことが一番大きな問題。しっかり再発防止に向けた取り組みをすることが一番大切だ」と話した。
NHKの番組チェック体制はどうなっているのか。
番組制作に携わる複数のプロ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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