テント・弁当・ゲーム…台風避難4千人のストレス軽減策

 台風19号の影響で、20日時点で全国で4千人を超える人が避難生活を余儀なくされている。慣れない避難所生活の精神的負担を少しでも減らそうと、プライバシーに配慮した間仕切りや着替え用テントなどを採り入れる動きが広がる。子どもらが家庭用ゲーム機で遊べるようにしたところもある。専門家は多様なニーズに対応した支援の必要性を指摘している。

 避難者数が20日時点でも900人を超える長野県。長野市では15日から、7カ所の避難所に着替えなどに使う約2・5メートル四方のテント70基を搬入した。避難所で人目を気にせず、着替えや授乳などができる空間をつくる狙いだ。

 6基が運びこまれた市立古里小学校では体育館や入り口で更衣室や保健室として使われている。

 自宅が浸水した吉村ミヨシさん(76)=同市穂保(ほやす)=は16日朝、テントでシャツなどを替えた。それまでは人目が気になって服を替えていなかったという。「ありがたい。性別や年齢に関係なく、人目の付くところで着替えるのは嫌なので助かっている」と話した。

 この避難所で看護師ボランティアとして13日から16日まで活動した伊藤由紀恵さん(41)は「人目がなければ、聴診器を胸に当てることもできる。家族の病歴など人がいないところで話したいこともあり、見えないスペースができることは大事」と歓迎した。

 長引く避難生活には、食事への配慮も欠かせない。

 水戸市では13日夜から、1日3食の弁当の提供を始めたが、当初は唐揚げやコロッケなどの揚げものが多かった。避難所を巡回する医師から栄養の偏りを指摘されたのを機に業者に依頼し、17日から中身を変えた。糖尿病を患う避難者2人には、低カロリーで塩分控えめな別メニューを用意している。

 20日夕に避難所の市立飯富中学校の体育館に届いた弁当は野菜と春雨の炒め物やマカロニサラダと白飯。台風が通過した12日夜から身を寄せる大信潤子さん(70)は「野菜たっぷりでおいしい。年寄りには脂っこいものより、こういうものの方がうれしいね」と笑顔で話した。(関口佳代子、益田暢子)

子どものストレス緩和、ニンテンドースイッチ投入

 被災した子どもたちのストレスを和らげようという試みもある。

 「めっちゃ強いじゃん!」「次は俺の番!」

 長野市の避難所になっているスポーツ施設に17日、子どもの歓声が響いた。目線の先にはテレビ画面。一角に設けられたニンテンドースイッチの人気ゲーム「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」などで遊べるコーナーだ。

 NTT東日本長野支店が16日から設置した。社員が県内の避難所を回り、復興支援の一環で公衆無線LANの設置を進める中、「子どものストレスを減らす環境がほしい」「子どもが暇を持て余している」という住民の声を聞き、試みを始めたという。

 支店の担当者は「これまでの生活に似た環境で過ごすことで、非日常が続く子どもたちにリラックスしてほしい」と話す。

 避難所運営の効率化にデジタル技術を活用する動きも進む。長野県内の避難所では食品や洋服、医療品など必要な物資をワンタッチで注文できるタブレット端末が60台導入され、運用が始まっている。

 災害時、避難所で必要な物資を調達するには、従来の方法では避難所から市町村、県、国の担当省庁へと電話での「伝言ゲーム」となり、連絡だけで煩雑になってしまう。2016年4月の熊本地震の際、経済産業省が日本IBM、ソフトバンクの協力を得てiPadを使った注文システムをつくり、活用が始まった。

 避難所でiPadに必要な物品の個数を入力すれば、市町村と県、国が瞬時に情報を共有できる。市が「市の備蓄で可能、すぐに送ります」などと返信すると対応も共有できる。台風19号の被災地では茨城県でも準備中だという。(柏樹利弘、岡林佐和)

避難所の運営方法を研究している静岡大学の池田恵子教授の話

 避難所にいる人たちは被災者でもある自治体職員などが運営に励む姿を目の当たりにして「負担をかけて申し訳ない」と知らず知らずのうちに心にストレスを抱える傾向がある。プライバシーや子どもの遊び場の確保といった負担軽減の試みは、全体からみればまだ少ない。避難所にいる人のストレスを減らすため、介護や子育ての経験者など、性別や年齢を問わず幅広い世代に運営に参加してもらう動きが求められる。多様な被災者のニーズを吸い上げることのできる態勢作りが大切だ。


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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