「環境配慮」をうたい、首都圏のスーパーを中心にじわじわ広がる「ノントレー」商品。専門家はどのように見ているのでしょうか。
環境問題に詳しい高田秀重・東京農工大教授は、「ノントレーという身近な素材をきっかけに、環境問題への関心を広げてほしい」と呼びかけます。
ノントレーを切り口に環境問題を考えるこの連載の最終回では、プラスチックごみとの向き合い方を考えます。
環境への負荷は……
――スーパーの精肉売り場で、食品トレーから袋に変える取り組みが広がっています。消費者としては、ゴミが減らせるというメリットがありますが、環境への負荷はどのくらい減らせるのでしょうか
「食品トレーと袋で違いがあるとすれば、体積でしょう。極端に言うと、リサイクル場まで運ぶ運搬車が少なくて済みますから、その時に発生する二酸化炭素やエネルギーの面では利点があります」
「ほかにはゴミ箱があふれにくくなるので、風で飛ばされて海洋汚染につながる5ミリ以下の断片になったマイクロプラスチックになるのを少なくすることはあるかもしれません。トータルとして見ると、メリットとしては割とマイナーな話かもしれません」
――袋もトレーと同じように回収しないと意味がないのでしょうか
「そうですね。精肉を入れる袋をリサイクルとして集めず、捨てて焼却されれば、逆にリサイクル率が落ちてエコじゃないかもしれません」
「食品トレーと違って、袋はリサイクルの流れや習慣ができていません。一方で、トレーは単一素材で作られ、分別もしやすいのでリサイクルしやすい。回収箱に集める習慣もあるので、システムとしてある程度、確立していると言えます」
「本来的には、食品トレーを袋に変えるといったことは、素材を使い捨てする限りは、変えた素材でまた別の問題が出てきます。素材を変えることに頼るよりも、できるだけプラスチックを出さないモノの回し方を変えることを考えることが必要です」
――食品トレーからノントレーにする取り組みはあまり意味がないということでしょうか。ノントレー商品を買うことで環境への意識は高まるのでは
「環境的なメリットは全体としてはやや小さいかもしれませんが、消費者がノントレーに触れることで、環境に関心を持つきっかけになるのは大きいと思います。日常生活に根ざした小さなところから、全体の大きな地球規模の環境問題へと意識や動きを広げていく必要があります」
「そしてプラスチックがどういうルートを通ってリサイクルされるのか、一人ひとりの消費者が想像しやすいように事業者や行政が工夫することも大切だと思います。今は、それぞれリサイクルマークがついていますが、さらに踏み込んでわかりやすい絵などを使って情報を開示してほしい」
「たとえばペットボトルで言えば、ラベル、キャップ、ボトル本体でそれぞれ異なる樹脂で作られていて、再生する際は種類の異なる樹脂を混ぜてはいけません。それぞれのプラが使用後にどうなるかを示せば、消費者が分別する理由が分かり、リサイクルへの意識も高まるのでないでしょうか」
《実は、ひとことにリサイクルと言ってもいろいろな種類がある。再びプラスチックに再生する「マテリアルリサイクル」。これは消費者が一番イメージしているリサイクルだ。プラスチック循環利用協会によると、2018年にリサイクルされた廃プラ計750万トンのうち、このマテリアルが23%。このほか、廃プラスチックを加工してガスや油にする「ケミカルリサイクル」が4%だった。
身近なSDGsを考えるこの連載では、スーパーで広がるノントレーの取り組みを出発点に、4回に渡り、プラスチックごみとの向き合い方を考えてきました。リサイクルにも様々な問題があります。では、消費者はいったいどうすれば――。
リサイクルにも課題
一番多いのは、エネルギーと…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル