ドローン(小型無人機)を利用して、人口の少ない農村部で個人宅に効率的に荷物を配送する新しい物流システムをつくるための実証実験が、北海道十勝地方北部の上士幌町(かみしほろちょう)で始まった。運転免許のないお年寄りら「買い物弱者」支援のほか、人手不足で末端の物流拠点から配送先までの配達が難しくなりつつある物流業者の「ラストワンマイル」問題の解消も見すえる。
10月6日、郊外の牧場や畑が広がる上音更(かみおとふけ)地区。町が配布するタブレットで地元スーパーに注文した商品を、「ドローンデポ」と呼ばれる拠点から空輸し、注文した人の自宅に届ける様子が報道陣に公開された。
大道静枝さん(82)は納豆や生卵、めんつゆなど計10品(約3キロ)を注文。商品を詰めた箱は、小学校跡のドローンデポでドローンの胴体下部に搭載された。ドローンは離陸すると約300メートル離れた大道さん宅前の芝生に約2分で着陸し、箱を切り離した。
大道さんは「生卵も割れていない。運転免許を返納しても、これがあれば買い物に便利と思います」。隣に住む長男の欣実(よしみ)さん(60)も「忙しい時に買い物などで送迎するのは大変なので、とても助かります」と話した。
荷物は計5キロまで運べる。経路はあらかじめプログラムで設定され、完全な自動操縦で飛行する。今回は実証実験のため、離着陸場所で操縦用のコントローラーを持ったスタッフが監視をしながら行われた。計3日間の実験には同地区の7世帯が参加する。
実験を実施したのは町と、物流大手で買い物代行サービスなどにも取り組む「セイノーホールディングス(HD)」(岐阜県)、産業用ドローンを開発する「エアロネクスト」(東京都)など。8月に包括連携協定を結んだ。今年6月の航空法改正で来年度中に、人がいる場所でドローンの機体を視認できなくても飛ばすことができるようになるのを見すえた取り組みだ。
11月にも、町中心部近くからも買い物支援や荷物配送を試みる。比較的近い家へはトラックを使い、遠い場所や山間部への荷物はドローンを活用して、効率化・省力化を図る新しい物流システムをつくる。実証実験を重ね、2023年度の実用化をめざしている。
エアロネクストの田路(とうじ)圭輔・最高経営責任者(CEO)は「注文して5~15分で届くのを体感してみてもらいたい」。セイノーHDの河合秀治執行役員は「持続可能な街づくりのため、物流がラストワンマイル問題や買い物弱者対策などの課題解決にどう役割を果たせるか探求したい」と述べた。
竹中貢町長は「地方でも、イノベーションにより、お年寄りが買い物に困らず、現在の居住地で暮らし続けることができる。社会的に大きな価値のある取り組みだ」と話す。
町は大雪山国立公園の東側に…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル