伊勢湾の入り口にある答志(とうし)島(三重県鳥羽市)は、万葉集にもうたわれた古くからの漁業の町だ。養殖クロノリの収穫は、冬の浜の風物詩だった。近年、その色落ちが目立っている。土色で風味も欠け、多くが出荷できなくなった。
「捨てるしかないんだよ」。鳥羽磯部漁協組合長の永富洋一(80)は嘆く。1枚10~20円で売れ、かつては漁師1軒で年に数千万円分、県全体では1990年代に年6億枚を生産した。それが近年は1億枚前後。いまや漁師は次々にやめていく。
直接の原因は海の窒素、リンなどの不足らしい。県はこれらの栄養塩が下水処理で減りすぎないようにする実験を始めた。
だが、同県ではアサリも90年代の9千トン前後から200トンにまで漁獲量が減り、イカナゴ漁は不振で7年前から禁漁になった。愛知県側を含め、伊勢湾の代表的な魚種が不漁にあえぐ。
イカ、サケ、サンマと、不漁は全国的な傾向で、高水温や黒潮の蛇行、藻場の減少など共通の課題もある。でもそれだけか――。永富は語気を強める。「長良川河口堰(かこうぜき)や徳山ダムで、大水がどんと流れないんだよ」
「やっと落ち着いた生態系を」 絡む利害と複雑な思い
伊勢湾の奥の愛知や岐阜を台…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル