冬が本番を迎え、店頭には初物のハタハタが並んでいる。記者は東京の出身。秋田では「これがなければ正月を迎えられない」とまで聞くハタハタを、地元の人たちはどう食べているのだろうか。夕飯時の家庭にお邪魔させてもらった。
13日に訪ねたのは男鹿市船越の太田文博さん(81)と政子さん(78)ご夫妻宅。近所の川田勝彦さん(58)も加わり4人で食卓を囲んだ。
この晩のメインは「ハタハタのしょっつる鍋」。しょっつるは、塩漬けにしたハタハタを発酵させて作る魚醬(ぎょしょう)のこと。味に深みをもたらす調味料だ。鍋の具は、市内の椿港で水揚げされた季節ハタハタ。政子さんが「ビールと交換で友人から譲ってもらった」という。
市販の魚醬で味付けした汁に、頭を落としたハタハタを投入する。文博さんの母の代までは、魚醬も家庭で作っていたそうだ。3分ほどして白い湯気が上がる鍋をかき混ぜながら、「馬の鼻息がかかればいいって言うからもういいかな」と政子さん。煮すぎると身が崩れるため、地元では昔から「馬の鼻息くらいの湯気がたったら食べ頃」と言われているそうだ。
塩で味を調え、豆腐とネギを入れたらできあがり。さっそくいただいた。オレンジ色がかった小さい粒がぱんぱんに詰まったブリコ(卵の塊)は、粘り気がすごく、納豆のように糸を引いている。ぷちぷちと卵をかみ砕く食感を楽しみながら、温かいしょっつるのうまみを味わった。
川田さんが持ち寄ってくれた、ブリコたっぷりの「焼きハタハタ」にも、冷めないうちにかぶりつく。香ばしく、だしじょうゆで味付けされた身がおいしい。鍋もおかわりし、気づけば7~8匹のハタハタを平らげてしまっていた。
ハタハタにまつわる思い出話を聞かせてもらった。
「おれ小学生のときは、ブリコのじゅうたんがあったな」と川田さん。ハタハタが藻に産み付けたブリコが大量に打ち上がり、浜は真っ赤なじゅうたんが敷かれたようになっていたという。「防波堤の上から跳ねて遊んだんだもの」
文博さんが幼いころは、生のブリコにしょうゆをかけて食べるのが、子どもたちの大好物だった。「いい歯だとバリバリってかむ音がする。誰がいい音出せるかって、競争してたなあ」
2人とも、今年は市内のハタハタ漁の調子があまり良くないことを気にかけていた。「今週のしけの後に来ねば大変だ」と文博さん。地元では、「ハタハタ食ったー?」と尋ねるのが、この季節のあいさつ代わりだという。尽きぬ話に川田さんの表情もほころぶ。「秋田の人は、ハタハタってば異常な熱だからなあ」(高橋杏璃)
■毎日飽きずに食べる伝統の…
2種類
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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