明治時代に長野県内のハンセン病患者の情報をまとめたとみられる資料が2月、インターネットのオークションサイトに出品された。患者の住所や氏名が書かれていたとみられ、新たな差別につながる恐れがあった。資料は最終的に元患者や支援者らの団体が買い取ったが、法的に回収する手段はなく、県は対応に苦慮した。(田中奏子、北沢祐生、編集委員・北野隆一)
「ヤフオク!」に出品された資料は「癩(らい)病患者並血統家系調」と題された台帳のような書類。敬和学園大(新潟県)の藤野豊教授(日本近現代史)からの連絡で出品を把握した長野県が確認したところ、表紙には「明治三十二年」「大町警察署」「永年保存」ともあった。内容とみられる画像もあり、患者名、住所、生年月日などの個人情報が閲覧できる状態だった。
書類は2月13日に埼玉県の古書店が出品し、入札がないまま18日にオークションは終了。同夜、ヤフー側が「不適切な商品」としてページを削除した。
ハンセン病の歴史に詳しい藤野教授によると、旧内務省が1900(明治33)年にハンセン病の全国調査を行った。患者3万359人を把握し、07(同40)年に患者隔離を定める初の「法律第11号 癩予防に関する件」を制定する根拠とした。資料は全国調査の1年前に作成されたとみられ、「国の調査の一環で警察が長野県に提出した報告書ではないか」という。
「売買や閲覧自体が人権侵害」指摘
藤野教授は「明治時代に警察や行政がハンセン病患者をどう見ていたか、差別的な視点を含めてたどれる資料だ。ただ100年以上前とはいえ、患者の住所、氏名などが記されており、売買したり閲覧したりできること自体が人権侵害となるものだった」と語る。
県人権・男女共同参画課の柳沢秀信課長も「病気への偏見や差別は残っている。出品はあってはならないこと」と話す。
資料が他者の手に渡れば、記録された患者の子孫のプライバシーなどの人権を侵害する恐れもあった。ただ、県にも県警にも関連する公的記録や類似の資料はなく、強制的に回収できる法的根拠もない。県は2月下旬、出品した古書店に無償提供を頼んだが断られ、「外部に出さないようお願いするしかなかった」という。
結局、県から相談を受けたNPO法人「人権センターながの」が市民団体「ハンセン病市民学会」(大阪市)に協力要請し、市民学会が3月3日、資料を買い取った。「ハンセン病問題の解決に向けて取り組む団体が責任を持って引き取ることが望ましい」との書店側の意向に対し、市民学会が仕入れ値を補償する形で応じたという。
市民学会は今後、県の関係機関や全国ハンセン病療養所入所者協議会などと検討会を作り、資料の取り扱いを協議する。市民学会の訓覇浩(くるべこう)事務局長は「当事者や専門家に意見を聞き、所蔵方法や所蔵先を決めたい」と話している。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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