今から7年前の2014年、福岡県香春町(かわらまち)の向井美枝さんは、50歳でウェディングドレスに身を包み、古い商館での写真撮影に臨んでいた。
実際は独身で、隣に新郎の姿はない。北九州・門司港で企画されたブライダルイベントの試着会に応募し、当選したのだ。インターネットで3万円のティアラを買い、美容室で髪をセットし、肩が見える純白の衣装をまとって当日を迎えた。「もちろん全参加者の中で最高齢だったはず。でも、そんなことどうでもいいじゃないって、内心ガッツポーズしていました」
朝日新聞には70年前から続く女性の投稿欄「ひととき」があります。心に残る投稿者を訪ねてみると、さらに続く物語がありました。
さみしさゆえの負け惜しみ
はじける笑顔で注目を集めていた向井さん。しかし、ここまでの道のりは長く、もがき苦しんだ日々だった。
幼いころから、「大きくなったらお嫁さんに」と夢見ていた。県内の短大へ進み、地元の病院やレストランで働いて数年がたったころ、友人が相次いで結婚した。
当時26歳。バブル経済に沸く社会は、24、25歳とされた結婚適齢期を過ぎた女性を、「売れ残りのクリスマスケーキ」に例えた。向井さんが金曜日の夜、少し値の張る和食屋に1人で出かけ、子どものいる友人にわざわざ電話をかけたのも、このころだ。
「『今ね、お酒を飲みながらお刺し身をつまんでて、これから夜遅くまで開いているギャラリーに絵を見に行くのよ』って。今となれば愚かだけど、さみしさゆえの負け惜しみでした」
恋人がいた時もあったがプロポーズされないまま、30歳に。「もう一生、独身か」と腹をくくりかけた矢先、結婚のチャンスが巡ってきた。
最初はお見合い。ピンと来ない…
【1/25まで】デジタルコース(月額3,800円)が今なら2カ月間無料!詳しくはこちら
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル