バリアフリー度合いも芸術的 車いすで巡る根津美術館

【動画】根津美術館をめぐるグリズデイル・バリージョシュアさん=遠藤啓生、竹谷俊之撮影

ジョシュとゆく東京バリアフリー

 深緑と静寂に包まれた根津美術館(東京都港区)には、南青山という土地柄、大勢の外国人旅行者が訪れています。

 老朽化にともない2006年から3年半をかけて全面改修。展示面積は約1.6倍に広がりました。設計の際には、バリアフリー対応のため、欧米の美術館への視察を職員が重ねました。

 日本・東洋の古美術品7千点のコレクションを気持ちよく鑑賞できるように、展示の高さや車いすでの動線にこだわりました。全ての展示室に車いすでアクセスできるように、館内には、段差がほとんどありません。

 生まれ変わった美術館を、外国人障害者向けの日本観光サイト「アクセシブルジャパン」を運営するバリージョシュア(以下ジョシュ)さんと訪ねました。(遠藤啓生)

 美術館への入り口は、両脇を竹で囲まれた、約50メートル続く回廊です。「インスタ映えする」と外国人旅行者の間でも有名な場所です。設計は五輪メインスタジアムを手がけた建築家・隈研吾さんです。

 本館へと続く舗装路はなだらかに整備されています。電動車いすはもちろん、介助者が押す場合も負担が少ないように配慮されています。

 本館1階の受付を通り、まず驚かされるのが、巨大な中国の石彫作品などが並ぶ広々としたホールです。「一般の来場者や展示物に接触する心配がほとんどないですね」と、ジョシュさん。

 日本・東洋の古美術品約7千件(国宝は7件)の所蔵品を車いすでも安心して鑑賞できます。

 ジョシュさんが特に感心したのが、本館1階と地下1階に設置されている「だれでもトイレ」についてです。便座に背もたれが付いているので、障害のある利用者が、背もたれに体重を預けることができます。介助者にとっても、ズボンをはかせやすいといいます。「利用者の声に耳を傾けているからこその発想」と美術館の、細かいところまで行き届いた取り組みに驚いていました。

 エレベーターで2階の展示室へ。中央のガラスケースには、車いすユーザーの目線の高さを意識して中国古代の青銅器が展示されています。ジョシュさんの目線の高さは約128センチ。小学校低学年ほどの高さです。「車いすユーザーは見上げて作品を鑑賞する場合がほとんど。根津美術館ならではの配慮です」と話します。

 一般の来場者にとっても、普段とは違う視点から、立体的に見ることができます。

 本館の裏にたたずむカフェ「NEZU CAF●(Eに´(鋭アクセント)付き)」に座ると、鮮やかな緑が三方の窓から目に飛び込んできます。

 注目すべきはカウンター席の高さ。手が不自由なジョシュさんにとって、少し前にかがむだけでストローに口をつけることができる「ちょうど飲みやすい高さ」になっています。足元も広く、一回り大きな外国製の車いすにも十分対応しています。

 本館南側に広がる日本庭園は、13年前の大改修に伴い、園内の飛び石が石畳に変更されました。水辺の散策路は車いすと一般客がすれ違うことができる程の幅に整備されました。

 砂利道だった外周路も舗装されました。車いすで園内を約20分程で1周できるようになっています。それでも庭園内は約12メートルの高低差があります。「万が一に備えて介助者が付き添うことをおすすめします」

グリズデイル・バリージョシュアさん

 1981年1月生まれ。カナダ・トロント出身。生後まもない頃の病気で、手足に障害が残り、4歳のときから車いす生活を送る。

 19歳の時に父親と旅行で初来日。駅のホームで職員が出迎え、改札まで車いすを押してくれた経験に感動。日本は「心のバリアフリーが達成されている」と実感する。

 日本永住を目指して2007年夏に再来日。16年には日本国籍を取得する。現在は介護施設「アゼリー江戸川」(東京都江戸川区)で事務職として働く。その傍ら、10年以上日本で暮らしている経験をもとに、外国人障害者向けの日本観光サイト「ACCESSIBLE JAPAN(アクセシブルジャパン)」を制作・運営している。

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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