パリ・コレは静から動へ ポスト・コロナへ希望をつなぐ

 静から動へ。コロナ下でデジタル配信となった2021年秋冬パリ・コレクションでは、今後への希望を訴えるかのように、華やかで活動的な作風が目立った。前シーズンの穏やかなリラックススタイルから一転、クラシックな中にもミニ丈や鮮やかな色、光沢素材でファッションの楽しさを謳歌(おうか)するようなデザインが主流になった。

 ルイ・ヴィトンは、前シーズンのユニセックスなワーク調から、がらりと趣を変えた。並んだのは、パンチの効いたフェミニンなスタイル。

 たとえば、クラシックなテーラードやアウトドアジャケットに、きらきらと輝くインナーや裏地と、オートクチュールのドレス風のチュールのバルーンスカートの組み合わせ。華麗なスタイルに新鮮さを与えたのが、イタリアのアート工房「フォルナセッティ」による、古代の彫像の手描き柄のプリントや刺繡(ししゅう)だ。

拡大するルイ・ヴィトン2021年秋冬コレクション=ブランド提供

 アウターはぶかぶか。ストリートとエレガンス、現代と古代など、相反する要素を大胆に共存させた。

 ロエベは「衝撃」をキーワードに、造形や色、ディテールに過剰さを盛り込んだ。はっとするような鮮やかな黄や緑、青。膨らんだフォルムのキルティングコートや、大きなオブジェを貼り付けたドレスなど。デザイナーのジョナサン・アンダーソンは、新作について「色で元気を出してと伝えたかった」。

 発表法も「衝撃」的で、新聞に新作の写真を載せた冊子を折り込んだ。表紙には「特報・ロエベ、ファッションショーを中止」とのニュースが取り上げられ、小説も載せられた。この冊子は英タイムズなど世界の主要紙、日本では朝日新聞の一部の世帯に配られる新聞に折り込まれた。その狙いをアンダーソンは「ファッションは文化の一部として、民主的なものになった。オンラインと違い、新聞は手でページをめくられ、ファッションの夢の存在を具体的に示すことが出来ると思ったから」と説明した。

拡大するロエベの2021年秋冬コレクション=ブランド提供

 コロナ下ではかなわない憧れというわけか、パーティーや都会での遊びのシーンを設定するブランドが多かった。

 なかでもシャネルはパリの伝説的なクラブ、カステルが舞台。モデルたちはツイードのロングコートをクロークに預けて、きらびやかなミニドレスで飲み物やメイクアップを楽しむ。赤系のツイードや白のキルティングのサロペットなど若々しくキュートな作品が多い。

拡大するシャネルの2021年秋冬コレクション=ブランド提供

 若さといえば、クリスチャン・ディオールは「おとぎ話の世界」をテーマに、ハイウエストのミニドレスなど初々しさが漂う作品をそろえた。おもちゃの兵隊の制服を再解釈したカシミヤのピーコートや、小学生を思わせる白シャツにジャンパースカート。赤ずきんちゃん風のフード付きの赤いコート。大人のファンタジーを感じさせる。

拡大するクリスチャン・ディオールの2021年秋冬コレクション=ブランド提供

 ジル・サンダーは持ち前のミニマルなコートやシャツに、黄色や薄紫といった柔らかな色が明るい。赤や水色の花柄、幾何学柄、チョウのモチーフなど、多様な柄が躍動感を与えている。ブランドによると、「個性、自由、変化への頌歌(しょうか)」の表現。一人の人間が様々な側面を持っていることを表し、「服で遊ぶこと、服を組み替えることの楽しさ」を伝えているという。

拡大するジル・サンダーの2021年秋冬コレクション=ブランド提供

 コロナ下で、人間も自然の一部という意識が広がり、その体が注目されている中、ダンスなどで身体性の表現を取り入れる例も目立った。

 エルメスは本拠地のパリで新作のショー、ニューヨークと中国・上海からはダンサーたちの生き生きとした踊りのパフォーマンスをライブ中継した。欧州と米国、アジア。場所や時間など様々な制約に関わらず、人間の体の魅力やファッションの自由さが、常に存在することを訴えかけた。

拡大するエルメスの2021年秋冬コレクション=ブランド提供(C)Filippo Fior

 新作で目につくのは、黒の多用。ほっそりと体に沿うシルエット。しなやかな黒革のトップスは小さな金具で留められ、ブルゾンには独創的な抽象柄が刺繡される。

 ドリス・ヴァン・ノッテンも、ベルギーのダンスカンパニー、ローザスなどのダンサーらが新作をまとった。活力に満ちた踊りが、普段よりドラマチックな新作の魅力を増幅させた。テーマは「情熱への呼びかけ」。サテン風のドレスには、衝動的に描いたような抽象柄のプリント。肌を露出した超ミニドレスと体が泳ぐようなメンズ風のビッグコートが組み合わされた。

拡大するドリス・ヴァン・ノッテンの2021年秋冬コレクション=ブランド提供

 日本勢は、繊細な美意識を反映した作品で存在感を放った。ヨウジヤマモトはいつものように黒が基調。ロング丈のドレスは体に沿って美しい線を描き、黒いチェーンベルトが静かな輝きを添えた。ほつれたような白い糸や、赤と黒のグラデーションになった帯状の飾りが変化をつけた。

拡大するヨウジヤマモトの2021年秋冬コレクション=ブランド提供

 石や卵、貝殻といった自然物から着想を得たのがイッセイミヤケ。京都の職人による「墨流し」の技で石を表現するなど、いつもより落ち着いた色調で、自然のありのままの美をとり入れた。

拡大するイッセイミヤケの2021年秋冬コレクション=ブランド提供

 マメ・クロゴウチは、窓から入った月明かりが室内に作る、様々な影を表現。伝統的な「板締め絞り」で染めたり、曲線のプリーツを施したり、揺らぐ影の表情をドレスやトップスに落とし込んだ。

拡大するマメ・クロゴウチの2021年秋冬コレクション=ブランド提供

 今季は、おしゃれの楽しさを強くアピールするような提案が多かった。コロナ禍は収まらないが、ファッションとは夢や希望を先取りするもの。今回のトレンドは、ファッションの意義をデザイナーたちが再認識した結果なのだ。(編集委員・高橋牧子、神宮桃子)

写真はすべてブランド提供


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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