京都大学を卒業してすぐに、「智頭杉」で知られる鳥取県智頭町に移住し、町内の林業会社「皐月(さつき)屋」に就職した。それから3年。作業道の開設や間伐、間伐した木の搬出をしてきた。「一つひとつの技術が身についていくのが実感できる。楽しい。開放的な空間で仕事ができるのは幸せ」
大学3年の時だった。就職活動を始めたが、「やりたいことは何だろう」と悩んだ。生まれ育った長野市では、野山で学んだり、遊んだりしていた。ビルは苦手。地方で生き生きと仕事をしている人を探した。
出会ったのが、海産物や農産物を生産者の思いとともに届ける情報誌「東北食べる通信」を発行しているNPO法人東北開墾(岩手県花巻市)の代表・高橋博之さんだった。「便利になった世の中に問題意識を持っていた」。大学を1年間休学し、食べる通信の編集や発送作業を手伝った。
多くの生産者と話し、自然という「現場」で働くことに格好良さを感じた。仕事として農業、漁業も考えたが、「山を考えたら、林業をやってみたいという気持ちが強くなった」。
京都に戻り、1冊の本を読んだ。「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」。地方での新しい生き方を示していた。著者の渡邉格(いたる)さんに会うため、智頭町にある渡邉さんの天然酵母パンの店「タルマーリー」へ。林業への思いも話したら、今の「親方」である皐月屋の社長を紹介された。
林業を始めてから間もなくして移動本屋「アカゲラブックス」も始めた。月に1回程度、車に書棚一つと気に入った数十冊の本を積んでイベント会場へ出かける。町内外3店舗で委託販売もしている。「林業は稼げる業界ではない。自分なりの表現で仕事を作り、できることは何か考えていきたい」(石川和彦)
扱うのは「読んで好きになった本」
――なぜ移動式の本屋に…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル