モーツァルトは自由に、軽やかに、ラフマニノフでは超絶技巧がさえる。音楽との特別な縁はない家庭で育った若手ピアニスト藤田真央さん(22)が、天真らんまんな人柄と観客を魅了する演奏で、世界中のマエストロに愛され、たびたび共演を果たすまでの道のりとは――。音楽との向き合い方から趣味までたっぷりと語ります。
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藤田真央さんのプロフィール
ふじた・まお 1998年、東京生まれ。東京音楽大学卒業。2017年、18歳でクララ・ハスキル国際ピアノコンクール優勝、19年にチャイコフスキー国際コンクール2位入賞。ミュンヘン・フィルほか国内外の主要オーケストラと共演を果たす。CD『ショパン:スケルツォ/即興曲』(ナクソス)は「レコード芸術」誌で特選盤に選ばれた。テレビ朝日系『題名のない音楽会』などでも注目される。今年度は各地でリサイタル、オーケストラと共演のほか、ヨーロッパの音楽祭にも出演予定。
――2019年のチャイコフスキー国際コンクールで2位になりました。もともと入賞するとは思わなかったとか。
ウクライナ生まれの天才ピアニストのホロヴィッツが永住先の米国から旧ソ連に戻り、約60年ぶりにモスクワ音楽院大ホールで開いた演奏会のCDを小さい頃から愛聴していて、自分もそこで弾いてみたかっただけなんです。
私はモーツァルトなど古典が好きで、得意にしていますが、音楽の解釈や奏法が個性的だといわれるので、1次で落ちるか、ファイナルまで行けるか、どちらかだと思っていました。
聴衆に愛され 血だらけのファイナル
――ロシアの聴衆にはかなり愛されたようですね。ただ、ハプニングも……。
1次ではモーツァルトを弾き終わった時、観客も審査員もみんな大拍手だったので「やったー!」って。「受け入れてもらえたんだなあ」とうれしかったです。セミファイナルでは、ファイナルにすすめる人の発表の時にに、自分を飛ばして演奏順が次の人が名前を先に呼ばれて、あれは超どっきり。審査委員長のデニス・マツーエフがいたずらっ子なんですね。ファイナルでは爪がぱっくり割れて、指が3カ所ぐらい血だらけで。すごく痛かった。でも、弾かないと終わらない。こればかりは恐怖でしたが、満身創痍(そうい)で1時間半をなんとか弾ききりました。
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1位のアレクサンドル・カントロフは本当にうまかった。すごくいい人なんです。音楽だけで、あとは何も執着がなくて、色んなことを知っている。2位が決まった時、彼と熱いハグをした。指導を受ける野島稔先生らから「君はまだ勉強することがあるから、2位で良かった」と言われましたが、悔しかったですね。でも、勝負だから仕方ない。
初めて、記者会見もしましたよ。「だれに伝えたいですか」って聞かれて「(飼っている)猫ちゃん」と答えたら、「はーっ?」となって。「おじいちゃん」とか言えばよかったのかな。
――コンクールの審査員だったピアニストの中村紘子さんからは生前、アドバイスがありましたか。
コンクールで弾いたラフマニノフのピアノ協奏曲3番は、浜松国際ピアノアカデミーで紘子先生にすごく厳しく指導されました。アカデミーのコンクールではその教えを100%消化しきらずに演奏したけど、1位になって。あとで、楽譜まで自作されたアドバイスの手紙が届きました。今回もあまり自信が持てず、弾きながら「先生、怒ってるかなあ」と思いました。
それでも、紘子先生はとてもかわいがって下さった。アカデミーの後も携帯に何度かお電話をいただいた。「レッスンでは(ピアノのペダルを踏む感触がわかりにくいから)スニーカーを履くな」といった基本的なことから、音楽の解釈や奏法まで、たくさんの教えがちゃんと心に残っています。コンクールをお見せできなかったのは本当に残念でした。
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マオはコンクールの「サプライズ」
――ガラでは、ロシアを代表する指揮者、ワレリー・ゲルギエフとの共演も。ゲルギエフは「マオの存在は、今回のコンクールの『サプライズ』だ」と言ったとか……。
マリインスキー歌劇場でチャイコフスキーのピアノ協奏曲を演奏した。あの方の指揮って、手をひらひらさせる。まったくわかんない。最初は、どこが拍なのかも分からない。でも、何度も呼んで下さって、マエストロのすばらしさが分かってきました。バランス感覚や一音出した時に、オケを抑え込んで、わーっと盛り上がっていく感じとか。トータルでつくりあげていくものなんですね。世界的指揮者のすごみに気づきました。
実は共演させていただくまでは、オーケストラがうまい、慣れているんだろうと思っていたら、違う。私の先入観がはなはだ稚拙だというのが、うかがい知れます。流れや音楽の作り方、構成も考えられていて、即興もできる。いつも刺激的です。私もくらいついていきます。
――お父さんは医師で、音楽とはあまり縁がない家庭で育ったそうですね。
ピアノは3歳から始めました…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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