太平洋戦争終結後もフィリピンで約30年潜伏した元陸軍少尉の故・小野田寛郎さんをモデルにした映画「ONODA 一万夜を越えて」が8日公開された。企画したのはフランスの新鋭アルチュール・アラリ監督。第三者の視点から見つめ直した“最後の日本兵”の物語が現代に作られたことの意味とは。
「神話のような力がある」
1944年にフィリピンに派遣された小野田さんは終戦後もルバング島で74年の帰国まで潜伏を続けた。映画は実際の出来事をたどりながらそれぞれの場面では脚色も交え、過酷な状況で仲間を一人ずつ失いながらジャングルにとどまり続けた姿を2時間54分かけて描く。
「寛郎さんが語っていた『戦争は絶対に始めてはいけない』ということ、生きることの大切さ、平和の貴さがよく分かる」。小野田さんの親族、小野田典生さん(71)は映画を見てそう口にした。
「事実と違う部分もあるが、命令を頑(かたく)なに守って生き延びようとした姿が映像を通して解き明かされるようだった」と感じたという。「人と人とが殺し合う究極の悪事が戦争。私たちの平和な暮らしは多くの犠牲の上に成り立っている」
40歳のアラリ監督は父親との会話をきっかけに小野田さんの存在を知り、心を奪われたという。「誰もが興味を引かれる神話のような力がある。国や文化を超えて、人間とは何か、人間性の根幹に関わる普遍的なものを描きたかった」と語る。
小野田さんを演じた遠藤雄弥さんと津田寛治さんをはじめ日本人俳優を多数起用し、カンボジアのジャングルで撮影。7月のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門のオープニング作品として上映、注目された。
青年期の小野田さんを演じた34歳の遠藤さんにとっては「戦争というもの自体が教科書の中の出来事」。脚本や関連の文献を読み、なぜ30年近くもジャングルにとどまり続けたのかを考えた。
「上官から『君は特別だ』と言われて心酔するような、信じる強さというのが島にいる原動力になったととらえて、演じる上で大事にした」と話す。
アラリ監督は「時代を超えた普遍的なものを目指していた」と言うが、くしくも現代とも呼応する物語になった。「自らが信じることに全身を捧げて一つの世界に閉じこもる思考の過激化と孤独、見えない誰かに対する恐怖と想像力によって敵を生み出す陰謀論やフェイクニュースなど今の時代とつながった」
映画はフランス、日本、ドイツ、ベルギー、イタリアの5カ国による国際共同製作で、フィリピン人俳優も出演。当事者の日本やアジアだけでなく、複数の視点から歴史を問い直す。そこには難しさもあるが、新たな可能性も見えてくる。
小野田さんを描いたフィクシ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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