不安や悲しみ、ささやかな喜び、コロナ下で様々な感情が人々を取り巻く。15~19日、デジタル映像を中心に発表された2021年秋冬ミラノ・メンズコレクションで核になったのは、感情に寄り添い、ときに働きかける服。ゆったりとしたシルエットや温かみのある質感、明るい色彩など、着る人がほっとするようなデザインが前季よりさらに主流になった。
ミウッチャ・プラダに加えて、人気デザイナー、ラフ・シモンズが共に手がける初のメンズシーズンとなったプラダは、「POSSIBLE FEELINGS(生まれ得る感情)」をテーマに掲げた。世界的なコロナ禍の中で、快適さや美を考慮しながら、服を通じて人間の個人的な感情をどう表せるかを模索したという。
通底するのは、身体やその感覚への意識だ。例えば、幾何学模様のニットのボディースーツや、レギンス風の極細パンツ。きれいな色のもこもことした太い畝(うね)のウールコート。触感や質感、色彩が人間の感情を呼び起こすとの提案だろう。時折、ボディースーツを着たモデルが踊る映像が差し込まれ、テーマがより強調された。
ラフ・シモンズの答えは
ショー後、世界の学生たちからの質問コーナーが設けられ、2人のデザイナーが丁寧に答えた。不安定な社会情勢が続く中でのデザインの方向性を問われたシモンズは「どんな時も服が持ち得る、あらゆる意味を表現したい。今回は物語性よりも、感情が重要と感じた。現実世界や現在の孤立状態に生きる一人一人の中で生まれ得る感情を表したかった」と答えた。
フェンディはクラシックなスタイルに、鮮やかな色や柄などで、このブランドらしいポップさを加えた新作を並べた。これまで以上に色濃く漂うのはリラックス感。コートやジャケットは、ガウン風や、襟や裾にパジャマ風のパイピングをあしらったものも。カジュアルなハーフパンツも多い。
着やすさだけでなく、遊び心もアピール。サイケデリックな落書き調のブランドロゴを施したコートや、全身を青や緑で統一したスタイルなど「色」に焦点を当てる。新たな時代のスタイルということか、最後に「What is Normal Today?」の文字が画面に現れた。
外で上品に着られ、室内でもゆったりとくつろげる服を提案したのがエルメネジルド・ゼニアだ。家での時間が増えた今のライフスタイルに合わせ、テーラリングを再解釈。ジャケットなど肩の線はゆるやかで、たっぷりと身を包むコートやパンツは、同じ生地のベルトがアクセントになっている。
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デザイナーのアレッサンドロ・サルトリは「新しい美学を創造するため、快適さとスタイルが融合する、新たな着こなし方が確立される」とした。
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活動的で、気分を高揚させるようなスタイルも目についた。エトロは、スポーティーなフード付きのトップスの上に、優美な植物柄のコートを羽織ったり、ベストを重ね着したり。カジュアルさとエレガントさを融合させた。発表した映像では終盤、影が落ちた室内からモデルが一斉に街へ繰り出す。力強く足を踏み出す姿は、いまだ気軽に外に出られない状況の中で、希望を見せるようだ。
日本のチルドレン・オブ・ザ・ディスコーダンスは、新作を着たヒップホップアーティストが、日本語で歌う映像を披露。デザイナーの志鎌英明は「夜は長くても、いつかは朝が来る。パワーのある服を届けたい」とコメントした。(編集委員・高橋牧子、神宮桃子)
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◇朝日新聞デジタルの特設ページ(https://www.asahi.com/special/fashion/)で、参加ブランド発表の動画や関連記事を掲載している。24日まで開催中のパリ・メンズと25~28日のパリ・オートクチュールでは、主催者の「ブロードキャスティングパートナー」として、情報を発信する。
写真はいずれもブランド提供
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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