ネット上で電子書籍が借りられる「電子図書館」を導入する自治体が、コロナ禍で相次いでいる。人と接触せずにいつでも本が借りられる半面、蔵書の少なさやジャンルの偏りなど、課題もある。電子図書館は定着するのか。専修大の植村八潮教授(出版学)に話を聞いた。
――電子図書館を導入している自治体は、一般社団法人「電子出版制作・流通協議会(電流協)」によると、今年1月1日時点で272。前年のほぼ倍に増えました。
一昨年はコロナ禍で多くの図書館が一時的に休館したこともあり、図書館に「電子図書館サービスをやっていますか」という問い合わせが急増しました。住民の認知度やニーズが高まったことと、導入にコロナ対応の地方創生臨時交付金を活用できたことが大きいですね。交付金を利用した図書館は全国で少なくとも105館以上あると推計されています。すでに導入していた自治体では、新たな電子書籍の購入にあてたところもありました。
――全国の公共図書館が本を購入するための「資料費」はおよそ20年前から20%ほど減少。電子図書館導入の動きは鈍い状態が続きました。
図書館用の電子書籍の値段は、紙の本と比べて平均で約2~3倍。1度購入すればずっと使える本もありますが、2年間もしくは52回の貸し出しで契約が切れ、買い直さなければならない本もあります。電子書籍を100点買うより紙の本を300点買った方がいい、と判断されて、多くの館が導入に前向きではありませんでした。ただ、内容が古くなったり利用されなくなったりした本は紙の図書館でも除架・除籍されていますから、2年もしくは52回の貸し出しで契約が切れるというのは「蔵書の見直し」と肯定的に捉える必要があります。
そして何よりも、図書館利用者の中心が高齢者で電子書籍にあまり関心がなかったことや、図書館がアクセシビリティー(利用しやすさ)や若い利用者の掘り起こしに積極的でなかったことが大きいですね。
コロナが転換点でした。やむなく休館が続く中で、高齢者も含め利用者が電子図書館に注目したわけです。
電子図書館は運営側にとってのメリットもある。蔵書スペースはいらず、職員による貸し出しや予約は不要。期限がきたら自動で返却されるため催促の手間もかからず、感染リスクもありません。
利用者にとっては、絵が動いたり効果音が出たりと、デジタルならではの楽しみ方ができる本もある。文字の拡大もできて、英語やフランス語、中国語など多言語で読み上げられる機能がついた本や、他の人が借りていても試し読みができる機能がついている本もあります。
――電子図書館には文芸の本が少ないという声をよく聞きます。
電子図書館は実用書、経済、ビジネス書などが多いですね。宅地建物取引士や税理士といった資格試験の問題集も電子に向いています。問題集は利用者がどうしても書き込んでしまうから、紙の図書館ではクレームがきやすくて購入しづらかった。電子だったらその心配はいりません。
一方で、電子図書館では文芸書の新刊やベストセラー本は少ないです。
私はそもそも、図書館にベス…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル