ドイツの首都ベルリン市ミッテ区に設置された慰安婦像の撤去が遠のいている。ミッテ区のフォンダッセル区長が10月に撤去命令を出したものの、韓国系市民団体などの巻き返しにより命令撤回の意向を今月1日に表明。像の設置が当面維持されることが事実上決まった。日本政府は早期撤去に向け粘り強く取り組むと同時に、像の設置を未然に防ぐ施策を強化する必要がある。 「日本政府の立場やこれまでの取り組みと相いれない、極めて残念なことだ」 茂木敏充外相は4日の記者会見で、慰安婦像の撤去命令が撤回されたことについてこう述べ、早期撤去を求めていく考えを示した。 ミッテ区の慰安婦像は、ドイツの市民団体「コリア協議会」が中心となって9月下旬に設置された。茂木氏がマース独外相に撤去を要請するなど日本側の働きかけが奏功して一度は撤去命令が出たが、韓国市民団体側に再び巻き返された。 慰安婦像は不当な日本批判の象徴といえる。だが、韓国市民団体は巧みにその意図を隠し、「戦時下の女性への暴力に反対する像」などと説明して回ったという。ナチス・ドイツによる強制収容所などの歴史問題を抱えるドイツでは、そうした主張が共感を得やすいとの算段が透ける。外務省関係者は「日韓の事情に疎いドイツ人は納得してしまう」と頭を抱える。 在独日本大使館は現在も「総力態勢」(外務省幹部)で撤去に向けた働きかけを続けているものの、見通しは厳しい。慰安婦像の設置期間は来年9月までの1年間とされるが、ミッテ区議会は像の「永続設置」を求める動議を今月1日に圧倒的多数で可決した。 自民党の佐藤正久外交部会長は「設置をされてしまうと撤去は極めて難しくなる。設置を未然に防ぐことが重要だ」と指摘する。 外務省は、ベルリン市内で像設置の動きがあることは事前に察知していた。しかし、韓国市民団体側の動きは「ステルス化」(外務省関係者)しており、詳細をつかみ切れず止めることができなかった。現地在住の日本人女性らの団体が設置を支援したことに加え、新型コロナウイルスの影響で大使館の情報収集や関係者への接触が難しくなったことも逆風になった。 それでも、慰安婦像の設置を防ぐのは政府の責務といえる。情報網の充実や広報戦略のさらなる強化などが急務だ。(石鍋圭)
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