カウンターに食券を出すと、30秒もしないうちに温かいかけそばが出てくる。しょうゆの香りが立つ甘辛いつゆに、柔らかめのそばがよく合う。
そばをすすり、つゆを飲み干す。外に出て振り返ると、入り口の上には「とうてつ駅そば」の看板。でも、ここにはホームやレールはなく、待てども列車はやってこない。
店があるのは青森県十和田市の中心部。駅ではなく、「十和田市中央バス停」の前。同じ建物には、十和田観光電鉄の本社が入る。同社の愛称が「とうてつ」だ。
同社は1922年に鉄道路線を開業。十和田市駅と東北線の三沢駅の約15キロを結んだ。そして、発着点となる両駅に開いたのが「とうてつ駅そば」だった。
改札を出たところに店を構え、列車を使う通勤客や学生を朝夕に漂うつゆの香りで誘い、凍える冬には湯気で出迎えた。
通勤で鉄道を使っていたという70代の男性は「いつでもそこにある、当たり前の存在だった」と話す。
ところが、鉄道は三沢駅が東北新幹線のルートから外れたことなどで利用者が減り、2012年に廃線になる。
駅そばはその後、バスの待合…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル