障害者の不便さを知ることでそれを解消してきたけれど、よりよくするにはどうしたらいいか――。そんな解決策を模索する手段として「良かったこと調査」が広がっている。ささいな配慮に助けられたり、心が温かくなったり。障害者の日常から、ヒントを探る取り組みだ。(井上恵一朗)
良かったこと調査を始めたのは、公益財団法人・共用品推進機構(東京都千代田区)。元は、障害があっても使いやすい製品を考えようと、企業の企画・開発関係者と障害のある当事者らの勉強会として約30年前に発足した。
全盲の人が朝起きて寝るまでの生活を実際に見たり、障害がある当事者からアンケートを集めたりして、日常にある不便さを知ることから始まった。
手で触ってシャンプーかリンスかを区別できるギザギザが入った容器などが登場しつつあった時代だ。同機構も、プリペイドカードの用途や表裏がわかる切り込みの形状など、多くの規格づくりに携わった。
「不便」の把握に努める一方、星川安之事務局長(65)は限界を感じることもあった。道にあいた穴を平らにするのは、ゼロに戻すだけのこと。歩きやすい道にするために、前向きな評価ができないか――。
悩みのなか、2013年度に始めたのが「良かったこと調査」だった。障害者団体などの協力を得て、旅行やコンビニ、医療機関のほか、多機能化した家電製品について、利用して良かったことを聞いていった。
18年度からは「地域」も対象に加わった。東京都杉並区では、同機構と区障害者団体連合会が区の協力を得て実施。身体障害や知的障害など様々な障害を持つ347人が「我が街で見つけた良かったこと」を回答した。「井の頭線で社員が息子と手話で会話してくれた」(聴覚障害者)、「飲食店で、店員がメニューを読み上げてくれる」(視覚障害者)などの答え以外にも、「前は苦情しか思いつかなかったが、この調査で『良いこと』も発見できた」との声もあった。
「杉並区の良かったこと調査」の事例から
店員が手話で「ありがとう」。これだけでもうれしい。聞こえないと伝えると、すぐにメモで記入してくれた(聴覚障害者)▽子ども1人で通学の訓練をした時、商店街の方々が「あの子は通ったよ」「あの子はまだだよ」と見守ってくれていた(知的障害児の母親)▽スーパーのレジでは、なるべく店員の目を見るようにしているが、店員も必ずこちらの目を見返し、親切に対応してくれる(聴覚障害者)▽店員さんが、スーパーでカゴを持って移動してくれて助かっている(肢体不自由者)▽昔よりも点字ブロックをふさぐ路上駐輪が減った。視覚障害者に対する配慮が増えた
推進役となった同連合会の高橋博・前会長(76)は「差別はだめと言うだけでなく、うれしかったこと、助けられたことを共有して相互理解を広げたい」。
区は今年度、試みを一歩進める。障害者が区のスポーツ施設を回り、気づいた「困りごと」を施設職員と共有。「良かったこと」に転換するアイデア集をつくる。区障害者施策課は「こんな風にしてみたら、というのを広げていきたい」という。
我が街の「良かったこと調査」は各地に広がる。沖縄県と那覇市、岡山市でNPO法人が実施。今年度も愛知、熊本、大阪の3府県で障害者団体が同機構との調査に取り組む。星川さんは「ゼロからプラスへ。『良かったこと』を共有することで、この土俵がみんなの社会になっていく。日本中の底上げをしていきたい」と話す。
■カプセルコーヒーの箱にはっ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル