コロナ禍のなか、家での食事が増え、農家や漁業者の努力に思いをはせた人も多いのではないでしょうか。産直の通販サイト「食べチョク」で利用を伸ばす秋元里奈さん(29)に聞きました。食を通じた「つながり」がひらく可能性とは――。(篠健一郎)
あきもと・りな 1991年生まれ。慶応大理工学部を卒業後、2013年にディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。3年半で退社後、16年11月にビビッドガーデンを創業し、17年8月から産直通販サイト「食べチョク」を始める。サービス名が書かれた紺色のTシャツがトレードマーク。最近はまっているのは本わさび。さっぱりしていてどんな食材にも合うところがお気に入り。
「魚をさばくところから楽しむ思考に」
夫婦共働きや高齢者の世帯が増え、人気が高まっている食材の宅配サービス。スーパーやIT大手、ベンチャー企業などが競い合う。ライバルが多い中、秋元さんが約3年前に立ち上げたサービスが「食べチョク」だ。なぜ始めたのか? 「生産者にファンがつき、定期的に買ってくれる。そうなれば安定した収入になるよね、と思って」
食べチョクでは生産者が価格を自由に決め、消費者に直接送る。収穫から早ければ24時間以内に、新鮮な食材が届く。サイトには1万点を超える野菜や果物、魚介類などが並ぶ。
少しずつ登録する生産者が増えてはいたが、「異変」が起きたのは、新型コロナウイルスの感染が広がり始めた2月末ごろだった。売り先を失った農家や漁業者から悲鳴にも似た声が続々と届き始めたのだ。「豪雨などの災害時に局所的にSOSが上がることはありました。ただ全国から、地域に関係なくというのは、異常な事態だなと」
安倍晋三首相(当時)が全国の小中高校などに3月初めからの休校を要請したのが2月末。給食向けの出荷が止まり、外出自粛などによる飲食店の休業が重なり、生産者は食材を届ける場所を必死に探し求めていた。
真っ先に取り組んだのは「売り先を失った生産者のために特集ページを立ち上げることでした」。反響は大きく、広島のカキ8千個が2週間で、兵庫のタマネギ3トンが1カ月で、売り切れた。生産者を応援しようとする消費者が次々買い求め、2月末からの半年間でサイトに登録する生産者数は2300と3倍に。利用者数は17倍に、月の流通額は36倍になった。
「(買い占めで)スーパーから一時商品がなくなったり、生産者が飲食店休業で困っているというニュースがあったり。食べ物が手元に届くまでに生産者という『生身の人間』がいることを、消費者が改めて考えたのではないでしょうか」
流通量が増えただけにとどまらず、買い手の変化も感じるという。「家で過ごす中での楽しみに食が占める割合は大きい。栄養補給だけではなく、楽しむことを意識する方が増えた、という感覚があります」
どういうことか。「今までは『マダイ1匹』は売れませんでした。内臓処理をされた一匹でも、切り身が良いと。それが、売れるようになった。魚をさばくところから楽しむという思考になっています」
それにしても、つい数年前まで東京・渋谷のIT企業で働いていた若者がなぜ、「畑違い」とも思えるサイトを立ち上げるに至ったのか。
実は、神奈川県相模原市の実家…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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