住民の高齢化が進み、災害時の安否確認などの対策が急務となった都市部のマンション。この課題に対応しようと、マンションの管理組合が地域の町会(自治会・町内会)に加入したところ、加入を望まない住民との間で訴訟に発展した。大阪地裁は8月、ある理由から町会加入に「待った」をかける判決を言い渡した。何が問題だったのか。取材を進めると管理組合の「限界」が浮き彫りになった。(杉侑里香)
■町会加入に反対の声
判決などによると、舞台は大阪市西区にある総戸数約230戸のマンション。築30年以上となり、65歳以上の住民が80人を超え、高齢化や単身者の増加が目立つようになった。
「住民の交流が少なくなっている。安否確認など災害時の備えも心配だ」。危機感を募らせた管理組合の理事は平成27年2月、地域の町会に一括加入する考えを総会で住民に明らかにした。(1)町会費(1世帯あたり1カ月300円)は住人が収める組合運営費から拠出(2)清掃や見回りといったボランティア活動を強制しない(3)プライバシーに配慮し町会に住民名簿を提出しない-などと説明した。
大多数が賛同し、管理組合は同年5月から町会に加入。しかし、住人の女性が「希望していない」「必要性を感じない」と主張した。女性は約2年分の組合運営費が違法に支出されたとして29年10月、組合に損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。上田元和裁判官は今年8月6日の判決で女性の主張を大筋で認め、管理組合側に3584円の支払いを命じた。
■任意か強制か
判決が指摘したのはマンションの管理組合と町会で、目的や法的根拠が大きく異なる点だ。
管理組合は建物を適切に管理・維持するため、区分所有法上、所有者全員の加入や経費負担を義務づける。これに対し、地域の親睦などを目的とする町会に法的な拘束力はなく、加入や費用の支払いは任意だ。
管理組合側は、町会加入が良好なコミュニティーの形成につながり「マンションの資産価値の向上につながる」と主張した。上田裁判官はそうした利点を認める一方、「町会の加入や費用支出は管理組合の目的の範囲外であり、無効と言わざるを得ない」と指摘。管理組合としての加入は不適切であり、加入は住民の意思に委ねられるべきと判断した。
双方とも控訴せず、判決は確定している。
■災害多発で重要性高まるも
町会への加入をめぐる地域やマンション住民のトラブルは、統計こそないものの珍しいケースではない、と指摘するのは、マンションや町会の問題に詳しい「マンションコミュニティ研究会」(東京)代表の廣田信子さんだ。
「一緒に汗をかくような交流や活動を大事にする町会側に対し、マンション住民側は具体的なメリットや組織の透明性を求める傾向がある」と廣田さん。加入に消極的なマンション住民だけでなく、町会側も面倒さを嫌って加入を拒むなど、新旧の住民間の考えの相違が背景にありそうだ。
かつては地域活動の中心であった町会だが、近年は組織力の低下が進む。
日本都市センター(東京)によると、都市部の自治体で住民の町会加入率が「9割以上」と答えた割合は平成12年は5割超だったが、25年は約1割に。担い手不足や役員の高齢化から活動が鈍り、新たな加入者も見込めない-という「負のスパイラル」に陥るケースも見受けられる。
一方で相次ぐ災害を受け、地域での助け合いの重要性は再認識されつつある。総務省の研究会の調査によると、日ごろから地域付き合いがない人は、災害時の避難先や支援物資の配布などを知らず、うまく避難できなかったり、避難先で住民らと協調できなかったりする事例がみられた。高齢者など災害弱者の支援や情報共有にも、町会をはじめとした地域組織の役割が期待されている。
廣田さんは「災害が増え高齢化も進む中、地域がつながる必要性は高まっている」と指摘。「形や組織にこだわらず、まずは緩い関係づくりから深めていくことが大切だ」と話した。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース