ラムネは地域の宝 4代目に手を挙げ、公務員を辞めた

北村哲朗

 【広島】尾道市中心部から渡船で3分。向島にある飲料メーカー「後藤鉱泉所」は観光ガイドブックでもおなじみの店だ。瓶に入った昔ながらのラムネやサイダーを目当てに、しまなみ海道を走るサイクリストらがよく立ち寄る。

 創業は1930(昭和5)年。後藤のゴにもかけた⑤がトレードマークの老舗を4月から引き継いだ。

 この春まで公務員だった。商売の経験はないが、「だからこそ逆にチャレンジできたのかも」。医療事務の仕事を辞めて向島へ移り住んだ妹の藍さん(42)と店頭に立つ。

 19年間勤めた竹原市役所では歴史を生かしたまちづくりなどを担当。地域に愛された店が高齢化や後継者不足で一つまた一つと消えていくのを間近に見てきた。公務員の仕事にやりがいはあったが、もどかしさも感じていた。40歳を過ぎて、個人の力で何かできないかという思いがふくらみ、事業承継のマッチングサイトをのぞいていて行き当たった。3代目の後藤忠昭さん(79)が夫婦で営んできた店を受け継いでくれる人を探しているところだった。

 観光客に人気の店でも後継者がいないのか。もったいない。地域の宝を守りたいと手を挙げた。

 「昔なつかしい ラムネ あります」――。手書きの看板が目を引く。瓶は繰り返し使うため、お客さんにはその場で飲んでもらう。どれにしようか? 年代物の冷蔵庫からラムネが取り出され、栓が抜かれると、瓶の中でビー玉が音を立てて踊った。目を輝かせるお客さんと会話が弾む。

 「四代目」と名刺に刷ったのは伝統の味を守り続けるという覚悟の表れだ。店に立ってまだ1カ月だが、「ラムネやサイダーを売っているだけじゃない。楽しい思い出の場も提供しているんだと気づいた」。店の空気感も守っていくつもりだ。(北村哲朗)

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 大崎上島町生まれ。大学卒業後、居酒屋チェーン社員などをへて、25歳で竹原市役所に入庁。19年勤め、この春退職した。後藤鉱泉所(0848・44・1768)の営業は午前8時半~午後5時半。不定休。

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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