一つの作品を一つの空間の中、一人で鑑賞する。3密を避け社会的距離を保つ、新型コロナウイルス対策を逆手にとった企画展示が、群馬県渋川市の渋川市美術館で行われている。
地元の風景画など6点と彫刻1点が、仕切られた区画に一つずつ置かれる。鑑賞用のいすも一つずつ。
各地の美術館が次々と休館するなか、この美術館でも予定していた企画が中止に。学芸員の須田真理さん(48)は「今だからこそのメッセージを伝えたい。『間隔を取ろう』と対策するだけでなく、形でそれを示せないか」と空いた展示室での企画を思いついた。
「正直、お客さんがたくさん来るような美術館ではできない」と笑う須田さんは、地方の小さな美術館の現状も逆手に取った。
拡大する地元を描いた風景画など6点と彫刻1点が、仕切られた空間に一つずつ置かれている
企画名は「1×1+1= 」(ワン・バイ・ワン・プラス・ワン)。一つの作品を一つの空間に置き、そこに観覧者がプラスワンで加わる。=(イコール)の先の答えは、人それぞれの中に生まれるという意味を込め何も書かなかった。
拡大する「自粛、自粛で疲れた心を少し緩めてもらえれば」と学芸員の須田真理さん
群馬県藤岡市から訪れた50代の女性は「こういう時にこそというアイデアが良い。一人だからゆっくりと、ぜいたくな時間を過ごさせてもらった」と堪能した様子だった。
千葉県市川市から草津への旅行途中で立ち寄った50代の男性は「自分だけの空間でじっくり見られる。まわりの人を気にしないから思わず眠くなった」と話した。
入場無料、7月26日まで。休館日は毎週火曜。問い合わせは同美術館(0279・25・3215)。(福留庸友)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル