【小塚かおるの政治メモ】長期政権維持の肝だったはずが
「落ちちゃったね」「何で下がるんだ」「久しぶりに上がったね」――。
官邸の執務室にある株価ボードを見て一喜一憂する安倍首相の様子が、アベノミクスの3本の矢を発表してからの就任1、2年の頃、しばしば報じられた。今も首相の執務室には株価を見るモニターがある。以前ほど株価を眺める頻度は減ったものの、日経平均が1週間に2000円を超えて暴落した2月最終週は、モニターから目が離せなかったのではないか。
安倍首相の政策判断の指標は就任当時から変わらない。株価と支持率である。株価と支持率は正比例で連動する。アベノミクスで株価が上昇基調だった当時は実際そうだった。だから、この2つは安倍首相にとっての「絶対指標」だ。高く保つことこそが求心力の維持と長期政権の肝であり、経済も外交も社会保障も、あらゆる政策決定がそのために行われてきたと言っても過言ではない。
だが今、いずれの指標も下落傾向だ。安倍首相の顔色は冴えない。直近の世論調査での内閣支持率は、共同通信が支持41.0%(前月比8.3ポイント
減)、不支持46.1%(同9.4ポイント増)、産経新聞・フジテレビでは支持36.2%(同8.4ポイント減)、不支持46.7%(同7.8ポイント増)などとなっている。
支持の落ち幅と不支持の増え幅が大きいのが際立つ。理由は安倍首相が主催する「桜を見る会」を巡る問題で国民が不信感を募らせていることや新型コロナウイルスによる感染拡大への後手後手対応に不満があるとみられている。
そんな中で安倍首相が「自らの政治決断」として要請した全国の小中高校の臨時休校は、首相にとってはリーダーシップをアピールできる支持率回復の起死回生策のつもりだったのかもしれない。だが、唐突過ぎて世間はパニックになり、特に子供のいる世代の反発は大きかった。要請から2日後の土曜夕方6時からという異例の首相会見設定には、首相の誤算と慌てぶりが表れていた。
「3月は子供たちにとって大切な時期」「休校措置は断腸の思い」などと子供や保護者、教育現場の心情を意識した言葉を並べたのは、さらなる支持率下落を食い止める意図が透けて見えた。つまり、休校決定も、その批判を受けての会見も、支持率回復目的ということである。
新型コロナウイルス対応では、こんな支持率対策もあった。
中国・武漢からの帰国者を乗せたチャーター機の第1便が羽田空港に到着した時間だ。1月29日の午前8時40分頃だったが、首相官邸はあえてこの日程を設定し、午前9時からの参院予算委員会の開始時間にわざとぶつけている。質問のトップバッターは立憲民主党や国民民主党などで作る野党会派。安倍首相が「桜を見る会」問題で厳しく追及されるのは間違いなく、チャーター機到着をテレビメディアに生中継させることで世論の関心を国会中継から逸らす狙いだった。
もっとも、コロナで桜を覆い隠すという思惑が成功したとは思えない。各種世論調査では、「桜を見る会」を巡る安倍首相の説明について、「納得できない」が昨年来7、8割という状態で高止まりしている。安倍首相が世論動向を最も気に掛けているとされる読売新聞でも、最新調査(2月14~16日)で「納得していない」が74%に上っている。
「官僚が前面に立って答弁したモリカケ問題などと違って、桜を見る会の問題は、後援会が主催した前夜祭の一件を含め安倍首相にしか説明ができない。だから答弁に矛盾やおかしさが見えれば、安倍首相個人への不信感に直結する。首相サイドが領収書などの証拠でもきっちり出さない限り、『納得できない』の高止まりは続くのではないか。中国の習近平国家主席の国賓来日や新型コロナ対策で中国人の完全入国規制をしなかったことなどで、安倍首相の強固な支持層である保守系の岩盤が崩れてきている。そこに加えて、桜問題による強固な不支持層という別の岩盤ができつつあるということだ」(自民党ベテラン議員)
日本銀行のETF(上場投資信託)爆買いや公的年金の積立金によって株価を買い支え、衆院選直前に北朝鮮のミサイル危機を「国難」としたり、参院選直前に韓国を「ホワイト国」から除外して支持率を上昇させた安倍政権。これまでは2つの指標維持に成功してきた。
しかし、、、絶対指標はついに火を噴き、狂ってきた。支持率対策を担っているのはもっぱら安倍首相側近の今井尚哉補佐官だとされる。「策士策に溺れる」というが、そろそろ通用しなくなってきたということではないか。
■小塚かおる(日刊現代第一編集局長)
1968年、名古屋市生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。関西テレビ放送、東京MXテレビを経て、2002年から「日刊ゲンダイ」記者。その間、24年に渡って一貫して政治を担当。著書に『小沢一郎の権力論』、共著に『小沢選挙に学ぶ 人を動かす力』などがある。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース