不動産会社元社長の無罪確定へ 明浄学院事件 大阪地検が控訴断念

松浦祥子、浪間新太

 学校法人「明浄学院」(大阪府熊取町)の土地売却をめぐり、手付金21億円を着服したとして業務上横領罪に問われた不動産会社「プレサンスコーポレーション」(大阪市)の山岸忍元社長(58)を無罪とした大阪地裁判決について、大阪地検は11日、控訴を断念したと発表した。山岸元社長の無罪が確定する。

 地裁判決は、山岸元社長が2016年、学校法人元理事長=同罪で実刑判決確定=に18億円を貸し付けた際、元理事長が発案した横領計画を知らなかった可能性が否定できないとした。

 検察側は、山岸元社長の部下が山岸元社長に横領計画を説明したとする捜査段階の供述を、有罪立証の柱に据えていた。だが、判決は、取り調べの際、検察官が「(プレ社の)評判をおとしめた大罪人。会社が被った損害を賠償できるのか。それを背負う覚悟で話しているのか」と発言したと指摘。真実とは異なる供述をさせかねない発言だったと認め、部下の供述は信用できないと判断した。

 大阪地検の八沢健三郎次席検事は「関係証拠を精査したが、控訴審で判決の認定を覆すことは困難であると判断した」とコメントした。検察幹部の一人は「供述の変遷理由を(取り調べで)もっと丁寧に聞くべきだった」と話した。

 山岸元社長は「検察庁にようやく真相を理解してもらえたことに、今はただ、ほっとしている」とした。

「供述頼み」の捜査、立証に警鐘

 2010年に発覚した大阪地検特捜部検事による証拠改ざん事件をきっかけに、検察は捜査や立証のあり方の抜本的な見直しを進めてきた。証拠が改ざんされた郵便不正事件では、見立てに沿った捜査で厚生労働省元局長の村木厚子さんが逮捕、起訴され、後に無罪が確定した。検察は11年に制定した「検察の理念」で、取り調べの際、必要な配慮をして真実の供述が得られるよう努める、という項目を盛り込んだ。

 だが、今回の判決で、検察官の取り調べが「真実と違う供述をさせかねない」と指摘された。山岸元社長の弁護人を務めた秋田真志弁護士は「証拠の分析が不十分なまま捜査し、見立てに合わせる形で供述をつくった。供述に頼った点で、10年前と全く同じことを繰り返した」と批判した。

 村木さんの無罪を受けて当時の法相が設置した「検察の在り方検討会議」で委員を務めた後藤昭・一橋大名誉教授は「検察は仮説に固執し、客観的な証拠と合っているかという吟味が足りなかったのではないか。結果として、動揺しがちな関係者の供述に頼りすぎた」と指摘する。検討会議が提言した「取り調べの録音録画(可視化)の拡大」を受け、検察官の取り調べの録音録画も一般的に行われるようになった。後藤氏は「可視化によって、裁判所はどのような取り調べで作られた調書か検証しやすくなり、厳しい目で判断している。『これくらいは大丈夫だろう』という現場の感覚を変えるのは容易ではないが、こうした判例を検察内部で浸透させていく必要がある」と話した。(松浦祥子、浪間新太)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

Japonologie:
Leave a Comment