組織の将来をかけたプロジェクトをめぐり、「良くない話」が明るみに出た。
関心を抱いた人から、その話に関連する「データ」を確認させてほしいと頼まれた。
組織のルール上は見せなければならない。だが、担当者は「ありません」と断り、データをサーバー上から消した。
上司も後日、プロジェクトの地元代表者が集まる場でデータの存在を問われ、「もう残っていません」と答えた。
しばらくして、担当者らが保存していたコピーデータが職場にあることがわかった。
組織は2人に罰を与えた。だが、「悪気はなかった」とみなした――。
大阪市が10月末に公表した懲戒処分の顚末(てんまつ)を要約すれば、こんな内容だろうか。
「疑いの目」が向けられる中で
上司は大阪港湾局・販売促進課の課長。担当者は元部下で、前年度の課長代理。それぞれ、免職、停職に次ぐ「減給」に処された。局長ら2人も監督責任を問われた。
同局は、日本初のカジノリゾート(IR)の建設予定地(此花区・夢洲〈ゆめしま〉の市有地)を管理し、同課は2019~20年度、IR事業者が将来支払う賃料の算定にあたった。
IRは、大阪府・市や政府が推し進める観光政策。いわゆる「国策」だ。
代理は担当係長として、算定を委託した複数の不動産鑑定業者の窓口役を務めた。賃料は問題なく決まったとみられていた。
だが22年秋、一部メディアが算定の過程で「不正」が疑われると報じ、議会で取り上げられた。市側は疑惑を否定しつつ、対応に追われた。問題はその矢先に起きた。
「ある」のに「ない」、その理由は…
市人事部の発表や同局の内部調査の結果によると、処分の主な対象行為はこうだ。
22年11月、しんぶん赤旗日曜版の記者が、賃料算定の過程で市側が業者と交わしたメールの開示を求めた情報公開請求に対し、代理はメールや添付資料が職場の共用ハードディスクに保存されていることを知りながら、「不存在」と対応し、請求を退けた。
また、請求を受けた約2週間後に、それらのデータをサーバー上から削除した。
代理は「(送受信後)1年を過ぎたメールは公開対象にならないと思っていた」と内部調査に説明したとされる。
一方、課長は文書管理の責任者でありながら、代理と十分に意思疎通を図らず、データが存在しないと誤認し続け、同12月と23年2月の市議会で誤った答弁をした。
課長は「(データは)1年を過ぎていて廃棄済みだと思っており、ハードディスク内にあることは4月まで知らなかった」と内部調査に説明したとされる。
データは3月、同局職員がハードディスクを使った際に偶然見つけたという。
1千枚超の公文書、「隠そうと…」
業務メールは「公文書」だ。
公文書は市の条例で「職員が職務上作成・取得した文書」などと定義される。所定の保存期間が過ぎれば廃棄できるが、実在する以上は公文書であり続け、請求があれば公開の可否を判断しなければならない。
保存期間は内容に応じて1、3、5、10、30年に分類され、いずれにも該当しない場合は、用が済めば1年を待たずに廃棄できる。業務メールが一様に1年と定められているわけではなく、代理の「認識」は誤りだ。
「あるのにない」とされたデータは、代理自身が送受信したメール約200通と添付資料で、紙ベースで1千枚超にのぼる。内部調査では、これらの保存期間は結果的に、1年または1年未満と判断された。
市側が7月に開示したデータを記者が調べたところ、疑惑を裏付ける内容は確認できなかったが、否定できる要素もなかった。
市人事部は2人の行為が「市の信用失墜を招いた」としつつ、「情報を意図的に隠そうとした事実は確認できない」と結論づけた。
以降の記事では大阪港湾局の内部調査の結果をもとに、初めて明らかにされた課長代理の「訴え」や、課長が7月の会見で伏せた情報について報じます。国策のもとに「知る権利」が軽んじられたといえる今回の問題。皆さんはどう受け止めますか。
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■「渦中の人」は動いた…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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