政府は8日から、新型コロナウイルスについて感染症法上の類型を季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に引き下げる。感染対策として導入したアクリル板のパーティションを取り外す動きもあるが、再利用の取り組みも始まった。
「あんなに活躍してくれたけど、今や邪魔でね」。東京・上野の飲食店の一角に、アクリル板のパーティション10枚が乱雑に置かれていた。
2年前、飛沫(ひまつ)防止対策として導入したが、今は客から求められることはない。店主(45)は「店も狭い。倉庫もない。だからといって、捨てるにも業者に頼まないといけない」とぼやく。
アクリル板は産業廃棄物のため、自治体によっては一般ゴミとして処理することはできない。それぞれの自治体に確認して、業者に処分を頼んだり、リサイクルに回したりする必要がある。
アクリル板の卸やリサイクルを担う緑川化成工業(東京都)は昨年末から、不要になったパーティションの買い取りを始めた。
同社には古いアクリル板を砕き、熱で溶かし、再生アクリル板としてリサイクルする技術がある。新製品を作るのに比べ、二酸化炭素を71%削減でき、廃棄されるアクリル板も大幅に減る。リサイクル後は駅の案内板のカバーなどに使われている。
コロナ下ではアクリル板の出荷が追いつかないほど需要が高まり、社内では「いつか社会問題になるのではないだろうか」と不安視されていた。環境を整え、今年10月から、リサイクルを本格的に始めるという。中村剛課長補佐は「社会の持続可能性を大切にするSDGsが浸透している。3年間使ったものだからこそ、リサイクルも考えて欲しい」。
「コロナ世代の自分たちにしかできない方法で」
リユースの動きもある。
今年3月、近畿大学の3年生が卒業生26人に、手作りのパスケースを贈った。少し傷が付いていたり、黄ばんでいたり。材料となったのは、教室に置いてあったパーティションだ。現在4年の奥野拓斗さん(21)らが企画した。
学生生活は常にパーティションと一緒だった。食堂にも教室にも。友人との間に壁となって立ちふさがる。奥野さんは「もったいない2年を過ごしたなぁと思っていました」と振り返る。それは先輩も同じだ。
1年前から、対面授業も増え、通常の生活に戻り始めた。一方、壊れて廃棄されたパーティションが気になるようになったという。「コロナ世代の自分たちにしかできない方法で、廃棄問題に取り組めないか」
ゼミの松本誠一准教授の指導のもと、近所にあるプラスチック開発メーカーと協力。ペット樹脂でできている軟らかい部分を加工し、縫ってつなぎ合わせ、パスケースにした。
4月中旬、卒業生から松本准教授のもとに連絡があった。「仕事も大変で、友達もまだできない。でも、このパスケースを持っているだけで力強く思う。私にとっては大事なお守りです」
近畿大学では5月8日の5類移行後はパーティションを撤去する方針。壊れたものは、学生たちがキーホルダーにしたり、飲食店のテーブルに置くメニュー表などに加工したりするアイデアも出ているという。(江戸川夏樹)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル