兵庫県尼崎市の幹部が、バイセクシュアル(両性愛者)の男性職員に対し「市民に(性的指向を)言わない方がいい」と指導していたことが分かった。男性はその後、依願退職した。同市は性の多様性を尊重する取り組みに積極的なことで知られるが、職員の研修をさらに進めるという。
市によると、2019年11月、この幹部に市民団体から「職員に性的指向を明かされて困惑した」と相談があった。翌月、幹部ら上司3人は男性と面談。市や男性によると、幹部は団体側の意見を踏まえ「社会全体が成熟しているわけではないから、言葉を選ぶべきだ」などと指導。幹部は「私だったら白血病だったり借金があったりしても、相手にどう思われるか分からない私的なことは市民に言わない」とも言った。
男性は3カ月後、退職した。「言葉を選ぶ教育ができていなかったとまで言われ、一方の意見をうのみにして問題視する市にがっかりした」と話す。
男性によると、性的指向を話したのは、業務で団体の人と面会した際、「彼女は? 結婚は?」と繰り返し聞かれたためで、「男性のパートナーがいる」と答えたという。幹部からの指導について「病気や借金と同列に論じられて納得できなかった」と話す。男性が性的指向を知らせていない別の上司を面談に同席させたことも問題視する。
当事者や支援者らでつくるLGBT法連合会事務局長の神谷悠一さんは「一方の意見をうのみにし、一方的に指導していることがまず問題だ。結婚について繰り返し聞かれたことへの返答に、改善が求められるのもおかしい。これは二次被害的で、本人は存在を否定された気持ちになったのではないか」と言う。
職場で性的指向や性自認についてカミングアウトするのを止めたり強制したりすることについて、厚生労働省は「不適切」と示している。神谷さんは「市は(幹部に相談した)市民に性の多様性について説明し、調整すべきだった」と指摘する。
尼崎市は、性的少数者のカップルを婚姻に相当する関係と公認する「パートナーシップ宣誓制度」を20年1月に導入するなど、性的少数者への理解を広げる取り組みを進めている。
幹部の発言があったのは、市が管理職に性的マイノリティーに関する研修を必修で始める前だった。
市幹部は取材に「いま思えば不適切な言い方だった。反省している」と述べた。面談に同席した上司も「これは人権問題だと、いまになって分かった。性の多様性への理解を職員にも市民にも周知していきたい」と話した。
市は発言があった経緯や問題点について詳しく調査するという。
また、市幹部に相談した市民団体のメンバーは取材に「差別や個人攻撃をするつもりはないと断った上で話した。なぜこんなことになったのか分からないし、残念だ」と話した。(中塚久美子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル