天皇、皇后両陛下は15日、東京と沖縄で同時開催された沖縄復帰50周年記念式典にオンラインで出席した。天皇陛下は、沖縄に思いを寄せてきた上皇ご夫妻の姿勢を継承。沖縄の人々の多くの苦難を「決して忘れてはならない」として、思いを寄せ続けている。
「今後、若い世代を含め、広く国民の沖縄に対する理解が更に深まることを希望するとともに、今後とも、これまでの人々の思いと努力が確実に受け継がれ、豊かな未来が沖縄に築かれることを心から願っています」
皇居・御所から出席した陛下は、沖縄には今もなお「様々な課題」が残されているとし、こう続けた。
疎開経験のある上皇ご夫妻は沖縄を繰り返し訪れ、戦没者を慰霊。戦争の傷痕や人々の苦しみに向き合った。昭和天皇の戦争責任を問う声が根強い中、皇太子ご夫妻時代の1975年の初訪問時に過激派から火炎瓶を投げられたが、上皇さまは「この地に心を寄せ続けていく」と談話で宣言。戦後50年の「慰霊の旅」などを含め、退位までにご夫妻で計11回訪れた。
上皇さまは天皇としての最後の誕生日を前にした会見で、「沖縄の人々が耐え続けた犠牲に心を寄せていくとの私どもの思いは、これからも変わることはありません」と発言。戦後の平和と繁栄が多くの犠牲と国民のたゆみない努力で築かれたことを忘れず「戦後生まれの人々にもこのことを正しく伝えていくことが大切」と述べた。
陛下や秋篠宮さまは幼少期からご夫妻を通じて沖縄の歴史や文化を学んだ。ご夫妻はお子さま方を同席させ、沖縄から訪れた「豆記者」と呼ばれる学生と交流。6月23日の「沖縄慰霊の日」などに黙禱(もくとう)を捧げてきた。上皇さまが即位後は陛下や皇后さまが豆記者と交流し、2016年には愛子さまも加わってバレーボールを楽しんだ。代替わり後は秋篠宮ご夫妻が引き継いだ。19年の懇談には悠仁さまが初めて出席した。
陛下はこれまでに沖縄に5回足を運んだ。2010年に皇太子時代の陛下が沖縄県立博物館・美術館を訪れた際、館長として案内した元同県副知事の牧野浩隆さん(81)は「沖縄に対する知識や思いをお持ちで、豊かで平和な国家運営に関心を持たれていることに感動した」と話す。
陛下は戦後70年にあたる15年の誕生日前の会見で「戦争の記憶が薄れようとしている今日、謙虚に過去を振り返るとともに、戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や日本がたどった歴史が正しく伝えられていくことが大切であると考えています」と述べた。即位前、戦没者慰霊の話題が出た際には戦争を知らない世代だからこそ、風化させないよう一層意識的になる必要性を皇室関係者らに示したという。今年2月の誕生日に先立つ会見では、沖縄の人々が多くの苦難を乗り越えてきたことを「決して忘れてはならない」と述べている。
側近は「両陛下には現地を訪れたいお気持ちが当然おありだ」と話す。10年に国立沖縄戦没者墓苑で陛下を出迎えた元糸満市長の上原裕常さん(73)は「足を運んでいただくことで沖縄の実情を見ていただき、県民の思いを理解していただければ」と期待する。豆記者を十数回引率した川満茂雄さん(75)は陛下が戦後生まれで、沖縄県民も世代交代が進んでいることに触れ、「上皇ご夫妻の平和に対するお気持ちは大切にされつつも、全てをまねされる必要はない。ご自身のお考えや新たな視点で県民とご交流いただければ」と話す。(多田晃子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル